鈴木家での出来事 2-7
「もう一人、男性がいた方がいいと思うの。」
そう言って紗理奈は潤一に連絡を取った。
潤一は、夕食後なら出かけられるという返事だった。
そこで征爾たちも、潤一を待つ時間を利用して食事をとり、準備を整えたというわけだ。
潤一は到着するなりいきなり紗理奈に服を脱がされ、地下室へ連れてこられた。
「なんだ。紗理奈は俺たちに、裸の婚約者を紹介するつもりか?」
田辺が紗理奈と潤一をからかった。
「外見ではなく中身で勝負ということよ。」
紗理奈はすかさず切り返した。
簡単な自己紹介を済ませ、いよいよパーティーの開始である。
「将来君にも手伝ってもらって、部屋の家具は大方片づけました。
暗闇の中でつまずいて怪我でもしたら元も子もありませんからね。
それからパーテーションも取り払って、ワンフロアになっています。
あ、和室はそのままです。一段高くなっていますからね。
床はもともと厚手のカーペットが敷いてあります。」
「それって、普段からこのフロアで、することもあるっていうことか?」
「ああ。田辺も経験済みだろう。
ベッドを使わずに、床に寝転がってすることも多いですからね。
これから10分以内に、この部屋の照明は全て落ちます。
タイマーをセットしたので、照明がつくのは約3時間後ですね。
それからストロボがつくのは15分から20分の間のランダムになっています。
あらかじめわかっていると、面白みが半減してしまいますからね。
それからカメラは赤外線カメラに切り替えてあります。」
「なんだ。この家は赤外線カメラまで備えているのか?
じゃあ、闇の中で何が行われていたかは……。」
「ああ。あとから観賞可能だよ。
ただ、この部屋の天井付近から俯瞰で撮影するから、もちろんアップはない。」
「じゃあ、運良く、カメラの死角に入れば、
何をしても、あとから検証不可能っていうことになるな。」
「田辺おじ様。何を企んでらっしゃるの?狙いは将来さん?それとも敏明かしら。」
「案外、征爾おじ様だったりして。」
「おい、田辺。それだけはやめてくれよな。」
「さあ、わからんぞ。何が起きるか。」
「ねえ、征爾おじ様。父のこと、縛り付けておいて結構ですわよ。」
「ああ。田辺。和室の天井から吊るしてやろうか?」
「わかったわかった。男同士が出会った場合は、休憩タイム。それでОKだ。」
「じゃあ、みんな。照明がついている間に、適当に散らばってください。
ライトが消えたらお楽しみのスタートです。
みんな。偶然の出会いを堪能しましょう。」
田辺たち家族は最初の出会いが家族同士にならないよう、壁に沿って立った。
考えることは征爾たちも同じようで、
二つの家族が部屋の端と端で対面するような形になった。
「なんだ、大体考えることは一緒だな。」
「ああ。いきなり暗闇の中での近親相姦は避けたいからな。」
「でも、わたしはそれでもかまいませんが。」
「おいおい。いきなり親父とするつもりか?」
「お父様とは言ってませんわ。ねえ、将来お兄様。」
「ああ。ボクは未来とでも全然かまわないよ。」
「じゃあ、もう少し散らばるか。」
「では、我が家も、もう少し離れることにしよう。」
田辺家の面々も、鈴木家の面々も、それぞれに距離をとって立った。
いつ、真っ暗になるかわからないドキドキ感の中、
10人の裸の男女がおよそ80uの地下室に広がった。
「ねえ、音楽とかかけないの?
真っ暗闇の中、沈黙の世界じゃ不気味でしょ?」
「いや。互いの身体が触れ合ったりぶつかり合ったりする音だけが聞こえる、
っていうのも、なかなかかもしれないぞ。」
「ねえ、声が出ちゃうのは構わないんでしょ?」
「ああ。もちろんだ。自然なことだからね。」
「相手を呼んだり、場所を教えたりするのはダメっていうことね?」
「そういうことです。それじゃあ偶然の出会いにならないですからね。」
「暗闇の中で探し回っているうちに、
別のペアにぶつかった場合はどうするの?」
「3Pもありっていうこと?」
「まあ、その辺は厳密に決めなくてもいいんじゃないでしょうか。
楽しい時間が過ごせることが第一ですから。」
「まあ、明るいうちに、それぞれの位置をおおよそつかんでおけば何とかなるだろ。」
「今はまだ、照明がついていますからね。
でも、始まってしまえば、ストロボが瞬間つくだけです。」
「そうか。じゃあ、している最中でも、そろそろ時間かなと思ったら、
部屋全体を見回していなきゃだめだな。」
「だからランダムに設定したわけです。」
「なるほど……って、いきなり真っ暗だぜ。」
地下室の照明が落ち、暗闇が訪れた。
「さあ、では、ここからは無言での移動です。」
地下室に沈黙が訪れた。
とは言うものの、神経を集中すれば息遣いや足音、
歩くときに肌と肌が触れ合う音などが聞こえ、
まるっきりの静寂というわけでもなかった。
未来は潤一がいた位置目指して歩いていた。
(紗理奈さんの婚約者とはいえ、やっぱり初物は手に入れなきゃ。)
それに、いきなりの裸の自己紹介の時にちらっと見た潤一のペニスも気になっていた。
(あ、もうあんなに……。この人、すぐ勃起しちゃうタイプみたい。)
未来はそう思っただけで自分も濡れてくるのがわかった。
(結構、似た者同士って感じかしら。
潤一さんはどうするのかしら。
やっぱり紗理奈さんを目指して歩くのかなあ。)
未来は暗闇の中を手探りで進んでいった。
すぐ近くに、人の気配がした。
手を伸ばす。
(ちょっと怖いなあ。ほんとに真っ暗だもの。)
何かが触れた。
(あっ。誰、だろう……。声は出しちゃいけないのよね。
触ってみるしかないのかな。)