砕かれた拳-6
『なに腰をヒョコヒョコさせてんだよ。嫌がるフリして誘ってんのか?』
「な、何が『誘う』よバカッ!!こんなッ…縄なんかッッッ!!」
ギュッ!ギュッ!と鳴るゴムチューブと縄の悲鳴は連続したものから断続的なものに変わり、そして次第に弱々しくなっていった。
反比例するように怒声のボリュームは上がっていき、やがてヒステリックな叫び声へと変わっていった。
(な…なんで壊れないの!?こ、こんな全力でやってるのに…ッ!)
もしも相手が人間であれば、かずさの研鑽してきた肉体はその能力を存分に発揮したであろう。
だが、今のかずさを封じている敵は、無機質な物体なのだ。
枷も縄も鉄パイプも、かずさの筋力で敵うものではなく、この恥辱の姿勢は僅かにも変えられるものではなかった。
激情に駆られる瞳には悲劇の輝きが纏わりだし、高い鼻の天辺は赤々と染まりだした。
その表情の変化は、余す事なくカメラの中に記録されていた。
『そろそろ《本気》ってヤツを見せてくれよ。俺達は歯を折られるか顎を砕かれるかってビビってたんだぜ?』
「んぎッ!い"ぃ"ッ!?じゃあお望み通りにしてやるわよッ!!…ッぐ!あ"あ"ッ!!」
『教えてやろうか?ちゃんと腹に力を入れて蹴るんだよぉ。クククッ…プニョプニョじゃねえか』
鈴木はかずさのパンティの前みごろに掌を当てて、プルプルと震わせながら摩った。
流石にしっかりと鍛えられた身体だけあり、蹴りを繰り出す瞬間の腹筋の硬さは相当なものがある。
だがこの筋力は攻撃には使えない。
その用途≠想像するだけで鈴木の男根はますます硬くなり、存分に楽しんでやりたくて堪らなくなる。
『これだけ待っても逃げないってコトは、結婚式を挙げてもイイってコトだよなあ』
『クククククッ!今日から一妻多夫≠フ新婚生活が始まるんだ。どこ見たってチンポしかないぜ?』
『なんだよ機嫌悪そうだなあ?ああ、そうか、ウェディングマーチが鳴らないと気分が乗らないよなあ?』
「ちょッッッ!?な、なにかけてッ…やめろッ!!かけるなあッ!!」
女の子なら可愛い花嫁に憧れるもの。
その時に流れる曲に対する想いも、同じくらい特別な感情を抱いても不思議ではない。
その大切な曲がスマホから流れ、それと同時に男共の合唱が始まった。
『こんな曲も結婚式には定番だよね?かずさ先輩も好きかなあ?』
「あ"〜〜〜ッ!?や、やめろぉッ!!やめッ…やめろおぉ!!」
幼少の頃からの想いも、拓也とのこれまでも、笑われながら踏み躙られていく……もしもこの瞬間に助け出され、本当の結婚式を挙げる日が来たとしても、もうこの曲は聴けない……心と思い出まで汚されるあまりにも残酷な悪戯に、かずさの顔面の紅潮は首元まで下り、そして胸の全域にまで拡がっていった……。
『おいおい、感動して泣いちゃってるよぉ。嬉しいじゃないか。もう他人行儀はやめて呼び捨てでイイよなあ?』
『かずさはもう俺らの女だからな。最高に綺麗なかずさの姿ってヤツを撮ってやろうぜ?』
「ヒック…んぐぐッ…!!……だ、誰の女だっていうのよッ!!わ…私はッ……!?」
息の上がったかずさの周りで、式の準備が始まった。
カメラを構えた高橋と伊藤は、それぞれに上半身と下半身とに別れた。
鈴木と田中は股間の側にしゃがみ、吉田はかずさの顔を見下ろすように陣取る。
かずさは誰彼構わず睨みつけ、涙ながらにまだまだ闘う気力があると威圧するが、その岩石のような拳はゴムチューブの張力に押さえつけられたままだ。
「あ"ッッッ!?や、やめろぉッ!!!」