砕かれた拳-3
「ん"う"ッ…!?」
痺れの残る手足に力を込めようとした瞬間、かずさの前髪はいきなり鷲掴みにされた。
その乱暴な振る舞いをみせた男は本名と免許証をカメラにみせた奴……ガッシリとした体格のリーダー格と思しき其奴は、目を細めながら顔を近づけてかずさを煽ってきた。
「ぐぐッ…さっきから何なの!?この汚い手を離しなさいよ…ッ!」
恐怖心を抱いていることを噯(おくび)にも出さず、かずさは余裕すら漂わせて男を睨んだ。
由芽にした事は絶対に許せない。
そして自分に対して笑いながらしている今≠焉c…。
鉄パイプにつけられた丸口金具の溶接も、よく見れば下手くそだったし、両手を引っ張るゴムチューブもさして太くもない。
電撃の効果がきれた時に、全力を出して抗えば壊せそう……今すぐにでもメチャクチャに暴れたくなる衝動を抑えたかずさは、その鋭い眼光だけで自らの意志を男の濁った目に突き刺した……。
『見てくださいよ、この顔……きっとJK時代にロリコンレイプ魔を蹴り倒した時も、こんな顔をしてたんだろうなあ〜?』
「!!!」
多少なりともメディアに露出した過去のある[奥村かずさ]は、スマホで検索すれば様々な情報を探れる。
だが、本来ならば空手での実績か女子格闘技に参戦した時のものだけのはず……そうかずさは思い込んでいた。
不審者ではなく《犯罪者》だと後で知った時に、逆怨みからの報復の危険を恐れたかずさと家族が、その事を公にはしてこなかった。
近しい人しか知らないはずの事件が、何故こんな奴らまで知っているのか……そして其れ≠カメラに向かって話した意味は……動揺に瞳は揺れ、しかし、ますます力んで表情を険しくさせる……。
『クククッ…なあ、かずさ先輩、あのカメラの向こうにはオマエが蹴り倒したロリコンレイプ魔みたいなヤツが、チンポ握ってニヤニヤしながらシコシコしてんだ……なんたって俺らが売る動画ってのは《本物》だからなあ』
「…………ッ!!!」
かずさは思わず息を飲んだ。
仲間内だけで観る動画を撮るには機材が本格的すぎるとは思っていた。
だがまさか其れを売り物にしているとは……。
『ヒヒッ!?本物のレイプ動画を買うなんて、かなりヤバい犯罪予備軍だろ?そういうヤツらの《ズリネタ》になるんだよ、かずさ先輩?』
『さっき言った新しい仕事≠チてのはコレだよ。姦られまくって悶えるトコを撮られて、レイプ大好きな〈素敵なお客様〉の性欲処理係になるってコトだよ』
『レイプ魔をブッ倒したリアル正義のヒロインだからなあ〜?こりゃあお客様のチンポを握る手にも力が入るぜぇ』
あの時に感じた不安が、まさかこんな最悪な形で降り掛かってくるとは……秘密だったはずの過去の武勇伝は、この男共と同類の鬼畜共にとって、理不尽な怒りと加虐の欲情を昂らせるに違いない……。
『でも喜べよ。マジモンの動画を観て満足してくれたら、実際にレイプなんてしなくなると思うぜ俺は』
『そうそう。レイプなんかやって捕まったりしたら人生終わりだもんなあ?やっぱり自分の手は汚さずに楽しむ方が利口だしなあ』
こんな身勝手な意見など聞いた事がない。
レイプ犯罪を防ぐためにレイプ動画を売る……改めてこの男共の本性は人間ではなく、社会に存在してはならぬ異常者だと思った。
『正義の味方・奥村かずさが性犯罪を未然に防ぐ為に自分の身体を〈売り〉にするなんて……クククッ…サイコーにやり甲斐があるだろ?しかも自分だけは一円も受け取らない滅私奉公のボランティア活動ってヤツだあ。自慢の暴力に頼らない平和的な……』
「ぶ、武道は暴力じゃないわッ!暴力はいま私にやってるコレ≠諠b!!どこまで頭がおかしいのよぉ!!!」
あの日の少女の痛々しい姿は、今でも鮮明に焼きついている。
優しく抱きしめても身体の震えが止まらず、迎えにきた両親の前で崩れるように泣き叫んだあの姿を……。
『ホントならよ、新庄由芽って女が《その役目》をするはずだったんだが、あのクソブタの動画じゃ犯罪予防にゃ使えねえんだよなあ?なんたって潮吹きまくりのイキまくりだったからなあ』
『へへへへ……心身共に鍛え上げた奥村かずさなら、チンポにも負けない《強い女》ってヤツを見せてくれるんじゃねえの?期待してるぜ……へへへ』
今度は侮辱の矛先を由芽に向けて笑いだした。
もはや泣いているのか笑っているのかすら判別不能な表情には精神崩壊の色まで滲み、それは昨夜からの凌辱の凄まじさを物語っていた。
「も、もうやめてぇ!ズズッ…私が…私が悪いのッ…ヒック……かずさ先輩は許してあげてッ…お願い、許してあげてくださいぃ!」
かずさの未来をメチャクチャにした重罪に、由芽の心は完全に潰れていた……由芽は必死に許しを乞い、滂沱の涙を流す……なんとも弱々しく、死相すら漂う姿……しかし、ここに集う姦獣共の心を動かすには至らない……。