心優しき少女-3
その当時
森の魔女は
森の奥にある沼の畔の小屋に
ひっそりと暮らしていて
森の中で様々な植物を採取し
何年もそこに住んでいた。
時々
村の住人が訪れ
魔女の薬と引き換えに
パンなどの食料をもらって
生活していた。
魔女は人を嫌い
初めての人間とは
決して会おうとはしない。
魔女に会いたければ
慣れた人間と一緒に
森に入らなければならなかった。
そうしなければ
魔女の魔法により
森を彷徨い
森の入り口に戻されるのだった。
魔女の薬は良く効いて
どんな病気も治ると
評判になっていたため
原因不明の病が流行ると
魔女の森に
何人も入って行ったと言う。
また魔女の薬のお陰で
命を取り留めた者も
お礼の食料を持って
森に入っていったと言う。
魔女に会った事のある人の話では
魔女は
ボロボロのマントを被り
黒く長い髪で顔は良く見えないが
雪の様な白い肌で
鼻は小さく美しい少女のような
面立ちをして
何年たっても年を取らない
と言う話しだった。
魔女は
病人の顔を見て
身体の至るところを触り
薬を作ってくれる。
その薬が何で出来ているのか
解らないが
恐る恐る飲んでみると
身震いするほど苦く
なかなか飲めない。
しかし
その薬を飲み続けていると
病気は治ってしまう。
村人は魔女に感謝し
崇める者もいたと言う。
だがそれを妬んだ街の人間による
魔女狩りが始められてしまう。
年を取らない
理解不能な魔女を
捉えて処刑しようとしたのだった。
しかし村人は誰も
魔女狩りに協力しようとしない
魔女は村の医師であり
守り神でもあったからだ。
森は街の人間に包囲され
魔女狩りが始まってしまう。
村の人間は誰一人
それを阻止する事が出来ず
ただただ魔女狩りを
見守るしかなかった。
しかし
何日たっても
魔女は見つからない
魔女の魔法により
街の人間は森の外へと
出されてしまうのであった。
痺れを切らした街の人間は
森を焼き払うことにした。
森を焼いて魔女を
炙り出そうとしたのだった。
森の至るところに
火が放たれる。
森を焼き尽くすのに
三日三晩かかった。
三日目の夜
炎に包まれる森の奥から
女の叫び声が聞こえた。
その叫び声は途切れる事なく
しばらく続き
天高くまで立ち上る
火の粉と共に消えていった。
森の火は消え
森の中は煤け
全てを見通せるようになったが
魔女の死体どころか
小屋の跡形も
沼も無かった。
ついに魔女は見つからなかった。
魔女は居なかった。
街の人間は
そう認識していたが
村の人たちは
呆然と焼かれた森を
見守る事しか出来なかった。
その翌年
原因不明の疫病が
街も村にも広がってしまう。
人々は魔女の呪いだと信じ
多くの人が命を落とした。
それから数十年がたち
森も木々で覆われるようになると
村人は魔女を探しに
森に入って行く。
森から帰ってきた男は
気が触れ
廃人となってしまい。
女は森に入ったまま
戻って来ることはなかったと言う。
廃人となった男は
「沼が、沼が…」と言うだけで
何かに怯えているようでもあった。
それ以来
魔女の呪いだと信じ
誰も森に
近づく事はなくなったと言う。
「でも、お父様!
それは100年以上も前のお話で
魔女はもう居ないのでは
無いのではないですか?」
「そうなんだが…
人々は魔女はまだ森で生きていると
信じているんだよ…
しかも私達を
恨んでいるに違いないと…」
「私はそうは思いませんわ!
だって森はあんなに美しくて
動物もいっぱい居るのですよ♪」
「そうなのだよ!
今でも魔女が森や動物を
守って居るのだよ!
だから植物や動物は
美しく安心して森で暮らしている
しかし人間は違う!
だから森に近づいては駄目なんだ!
シャーロット…
解ってくれるかい?
お父さんはお前の事が心配なんだ
お願いだから
もう森には近づかないと
約束してくれないか?」
「……解りました…
もう森には
近づかないようにします
だってお父様の
悲しむ顔は見たくないもの…」
「ありがとうシャーロット
愛しているよ…」
父はシャーロットの額に
キスをして部屋を出ていった。