狂った肉宴-3
「せっかくのメシが冷めてしまうわ」
赤ら顔の源造が女たちに料理を進める。
「ごめんなさい、食欲がなくて」
「わたしも・・・」
酒の香りにむせたのか、あるいは敏感な粘膜がそれを吸収したのか、全身をほんのり桜色に染めた女たちが答える。
「一晩中犯されるのじゃ、食わねば身がもつまい」
そう言いながら唐揚げを自分の口に放り込むと、くちゃくちゃと音をたてて噛み始めた。
「?・・・」
怪訝な表情のりかを仰向かせるとその口に唇を重ね、とても食べ物とはいえない流動物を押し込んだ。
「うッ・・・」
あまりの気持ち悪さに 噴き出しそうになったが、そんなことをすればどんな仕打ちがあるか分からない。吐き気を押さえながら、ごくんと飲み込んだ。
「これなら食べやすいであろう。どうじゃ、儂の料理の腕前は?」
りかに食レポをさせようというのだ。
「そ、その・・・ぜ、ぜんぜん油っぽくなくていくらでも食べれそうです。お、おいしい・・・」
「ほう、都会の若い子の口に合うか心配だったが、喜んでくれたか」
「あ、はい・・・」
「そうかい、そうかい」
りかの返事に気を良くした源造が肉はもちろん、焼き魚やさらには刺身までをも口に運び、噛み砕きはじまた。
(そんな・・・ひどい)
眉をひそめて男の口元を見つめていたりかだったが、半ばヤケ気味に口を開くと、グチョグチョの嘔吐物のような食物を受け入れたのだった。
「麻衣も食欲がないとな?」
「あ、いえ、大丈夫です」
唐揚げをつまみあげると、口に放りこんだ。
「うん、おいしい」
そう言ったものの顔はひきつり、声は震えている。ニワトリの解体など見せられては、好物の唐揚げも疎ましい。
「この儂がもっと美味しくして進ぜよう」
ワサビをチューブからたっぷり絞り出すと、唐揚げに塗りたくる。
「どうした、儂の料理が食えんのか?」
「い、いえ・・・頂きます」
源造に睨まれ、恐る恐る手を伸ばして口に運んだ。二回、三回と噛み砕く。
「・・・ッ!!」
稲妻のような辛みが鼻から後頭部に走り抜け、麻衣が悶絶する。舌が異物を押し出そうとするが、両手を口に当てて耐えた。やはりお仕置きが恐ろしい。
大粒の涙が頬を伝い、口の中まで流れ込む。半分咀嚼された激辛唐揚げと混ざりあうが、味をマイルドにする効果はない。
「ハア、ハア・・・」
やっとの思いで胃に送り込んだ麻衣が肩で息をしている。
「お、お水を・・・お願い」
運動後の犬のように舌を出して荒い呼吸を繰り返す麻衣に、源造がグラスをさしだした。奪い取るようにそれを口に含んだ麻衣だったが
「プハーッ!」
一口のんで慌てて吐き出す。日本酒だった。
「ワッハッハッハッハッ・・・」
源造が高笑いをする。苦悶する麻衣の表情が愉快でたまらないらしい。
「お願いです、もう虐めないでください・・・」
そんな哀願を無視してワサビを絞り出して唐揚げに絡め、赤唐辛子を添えた。
鶏の唐揚げ激辛ソース仕立て唐辛子添え
「旨そうであろう。ささっ食わんか」
「ひどい・・・」
悪魔の所業に麻衣の端正な美貌もゆがむ。それでも男に命令されると恐々とそれを摘み上げ、口に含めた。
「吐き出してみろッ、容赦せんぞッ!下の口にタバスコを塗りたくってやるッ!」
「・・・ッ!!」
男に恫喝され、怖がりながらも口を動かした麻衣が固まる。金縛りにあったように全身を硬直させて震えていたかと思うと
「グギャアッーーーッ!」
夜のとばりが下りた山中にとても人間のものとは思えない黄色い咆哮と、「ワハハハハッ」と男の笑い声がいつまでも鳴り響いていた。