扉の向こうの牧子-1
僕の横で、芳恵がティッシュを使って溢れたものを受け取りながら、しきりに目配せをする。扉の向こうを指し示す。
芳恵の肉体に耽溺し、僕は物音が聞こえなかったものの、芳恵は物音に気付いたらしい。芳恵の母、牧子がそこで、僕らの行為を覗き見て、今晩も身近等を鎮めていたのだろう。
芳恵が首を持ち上げ、僕の耳元で囁く。
「もう一回、イケそう?」
僕はニヤリと笑い、肯くが、
「立たせてくれたなら、あと一回くらいは」
と囁き返す。
カラダを彼女に擦り寄せ、もう一度挑もうとすると、芳恵が手で押しとめる。
「なに?どうしたの?」
そう囁けば、芳恵は二、三度深く頷いたが、口は噤んだままだった。
キスが欲しいのか?そう思い、顔を近づけるとまたしても、芳恵は僕を押しとどめる。そして、小声で囁いた。
「・・・お、お願いがあるの・・・」
彼女の願いとは何だろう?もしかして、今日の瑠璃子夫人の経緯を思い出し、お尻の穴が疼いたのかもしれない。
「い、いいよ、言ってみて?」
僕は彼女との初のアナルセックスを夢見て、にわかに興奮し、少し上擦った声で囁いた。
芳恵はしばらく言い淀み、しきりに扉の方を見る。
「どうしたの?どうして欲しいの?」
僕は焦れ、芳恵の頭をそっと抱いて、彼女の口からアナルセックスという刺激的な言葉が出るのを待ち続けた。
「お・・・」
ようやくにして彼女は口を開いた。かすれた声が、お、と言ったまま、また口を噤む。
僕はもう我慢できなくなり、思わず口走る。
「お?・・・もしや・・・お尻、の?」
そう言うと、芳恵が束の間驚ろいた顔をする。僕は彼女の表情が意外で、目を見開いて見つめた。
芳恵は僕の眼差しを避けるように僅かに顔を背ける。口に出すのが恥ずかしいのだろうと思ったが、顔を横に向けた彼女の唇から囁かれた言葉はさらに意外なものだった。
「お、お母さん・・・よ。・・・アナタ、お母さんを抱いてあげてくださる?」
「えっ?」
思わず叫んだ僕の声は心外にも大きく、彼女の指がするりと伸びて、僕の唇を押さえた。
「大きな声出さないの。・・・ね?どう?・・・お母さんは、いや?」
いやも何も、芳恵の母、牧子のカラダは僕を惹きつけて止まない。芳恵さえ許してくれるのなら、牧子のカラダで思う存分歓を尽くしたいと願っていたのだ。その芳恵が、自分の母親を抱いてくれないか?と頼んでいる。
「え?いいの?」
僕は素になり、思わずそう言ってしまった。
「いいの?って、アナタ。アナタはお母さんを抱いてくれる、っていう意味なの?それ、って?」
「え?え?え?・・・い、いや、そのう・・・。芳恵のお母さんが抱かせてくれるなら・・・。いいよ、し、してみても・・・」
しどろもどろに答える僕は混乱して、自分でも何を言っているかわからなかった。
「わかった。・・・じゃ、呼ぶわよ?ホントに、いいの?」
芳恵は少し嬉しそうな、しかしほんのちょっぴり緊張した面持ちで、僕が頷く様子を窺っていた。
芳恵はやおら起き上がり、扉に向かって叫ぶ。
「お母さんっ!」
少し怒ったような、はっきりした口調でそう呼び掛ける。
一瞬後、廊下の床に、コトン、と何か落ちる音がした。続いてそっと後ずさる足音も聞こえ始めた。その、コトン、という音は、牧子が自慰に持ち込んだ、長物野菜かバナナだろう。
「お母さんっ!そこにいるのはわかっているの!」
今一度芳恵が叫べば、退く足音がピタリと止まる。芳恵が素早く身を起こし、立ち上がると、扉に向かって小走りした。