夜の狂宴の前に 香澄の性春 その1-4
史恵に問い詰められたように、匠が絞り出すように話し始めた。
「あ?え?あ、ああ。そ、そうなんだ。
ボクも、香澄さんと二人っきりっていうのは、なんだし。
それに、香澄さんがいて、史恵さんがいて、
男がボク一人で女が二人っていうのも、なんか変だし。
だから、豊も泊って、4人一緒、っていうんだったら、
ボクも泊っても、いい、かな、って。」
「ね?聞いたでしょ?
だから、香澄が帰るって言ったら、この計画は全部だめになるの。
ねえ、香澄。わたしが豊君のこと、ずっと好きなの、知ってるよね?
わたしが、ずっとずっと、豊君に憧れていたってこと、わかってるよねえ。」
香澄は頭が混乱してきた。
(史恵は……。わたしのために?
それとも、自分のため?
ああ、でも、匠君と一緒にいられるなんて夢みたいだし。
でも、確かに二人きりは恥ずかしいかも。
でも、史恵もいて、豊君までいて……ってなったら、いったい……。)
「香澄。言ってくれたよね。わたしの恋に協力してくれるって。」
史恵は香澄の膝に手を置いて、念押しをするように強い口調で言った。
それでも香澄が黙っていると、史恵は急に怒ったような声で言った。
「そっか。香澄はわたしに協力してくれないんだ。
だったら、別の女の子を呼ぶしかないか……。
男女2対2じゃないと、わたしは良いけど、匠君と豊君も嫌だろうから……。
あ、そうだ。綾乃がいいわ。
綾乃だったら、きっとお泊りもOKしてくれるわ。」
「あ、綾乃?よ、横田、さん?」
あまりにも意外な名前が出たことで、香澄は動揺した。
「そうよ。横田綾乃。
だって、彼女も匠君のこと、好きだったでしょ?
その匠君とお泊りできるとなったら、直ぐにでも飛んでくるわ。
そうだ。そうしよっと。」
史恵はそう言うと立ち上がった。
きっと綾乃に電話を掛けに行くのだろう。
史恵は入り口のところで振り返り香澄を見た。
香澄はいよいりギリギリまで追い詰められた。
「わ、わかった、わ。
わたしも……。泊る。」
絞り出すようにしてそう言った香澄のひざ元に史恵がしゃがみ込んだ。
「え?香澄、今、なんて言った?」
香澄は史恵の顔を正面から見てはっきりと言った。
「わたし、泊まらせてもらうわ。」
「いいのよ、香澄。気が向かないんだったら無理しなくても。」
「ううん。大丈夫。あ、そうじゃない。
ねえ、史恵。お願い。わたしも泊まらせて。」
「ホント?ホントなのね?約束よ。約束だからね。
気が変わったなんて言ったら、もう絶交だからね。」
史恵は飛び上がらんばかりに喜んだ。
香澄がそっと顔を上げると、匠と豊が複雑な表情で顔を見合わせていた。
史恵が作ったインスタントラーメンを4人ですすり終えると、
4人にはすることが無くなった。
沈黙の時間が過ぎていく。
史恵が思い出したように香澄に言った。
「ねえ、お風呂、入る?」
「あ、いや、別に。」
香澄は反射的に言い返した。
「そっか。じゃあ、豊君と匠君は?」
「あ、いや、ぼくたちも、別に、なあ?」
「ああ。汗、かいてないし。」
再び4人を沈黙が襲った。
「じゃ、お布団、敷くね。」
「えっ?」
「えって、なに?畳の上でするの?結構膝とか背中とか、痛くなるわよ。
掛布団はいらないの。敷布団だけ、部屋に敷き詰めておくのよ。」
史恵はそう言いながらも押し入れから布団を出し、さっさと敷き始めた。
史恵は畳の上で、あるいはこうして敷いた布団の上で、した経験があるのだろうか。
そんなことを思いながら3人は史恵のしていることをただぼんやりと見ていた。
急に匠が立ち上がった。
「手伝うよ。」
「あ、ありがとう。」
「一人じゃ大変そうだから。」
するとそれにつられたかのように豊も立ち上がり、
3人は一緒にシーツを広げていった。
香澄は部屋の隅に追いやられた形で、座ったまま動けなかった。
(3人とも、その気なんだわ。どうしよう。)
「で、どうしようか。」
布団を敷き終えた豊が布団の上に座って匠に話しかけた。
匠もつられたように布団に座る。
香澄は男二人のそばに近寄ることも出来ず、助けを求めるように史恵を見た。
史恵は香澄の困った顔を一瞬見ると、直ぐに匠と豊に視線を移した。
「あ、そうだ。ねえ、わたし、着替えて来るね。」
そう言うと、史恵は返事も待たずに部屋を出て行った。
再び気まずい沈黙が3人を包んだ。
匠は豊と顔を見合わせたまま、香澄を見ようともしなかった。
もちろん香澄も部屋の隅に座ったまま、じっと畳の目を見ていた。
早く史恵が戻ってこないか、香澄はそればかり考えていたが、
5分経っても、10分経っても、史恵はなかなか戻ってこない。
香澄がしびれを切らして立ち上がろうとした時、ようやく史恵が戻ってきた。
「ごめん。ちょっと時間がかかっちゃった。」
「史恵。遅いからどうしたかと……思っちゃった……。」
顔を上げた香澄は入り口部屋の入口に立った史恵の姿を見て唖然とした。
「どう?結構色っぽいでしょ?」
史恵は真っ赤なルージュを付けていた。
おまけに、ピンク色のレースのブラジャーとパンティーだけの姿だった。
上下お揃いのレース柄の下着は、とても女子高生が身に着けるようなものではなかった。
「ふ、史恵……。」
「どう?似合うかしら。ルージュはもちろん母親のだけど、下着は自前よ。」
「で、でも、そんな下着……。」
「プレゼントよ、自分で買うわけないでしょ。」
「プレゼント?」
「そ。いろいろと、くれる人がいるの。
香澄。豊君の前で、あまり詮索しないで。
さてと……。」