帰らぬ妻 (1)-5
自分たちの方へ近づいてくる男に気が付くと、ゆきとFは驚き、セックスを中断した。当たり前である。やはりだめか。
サラリーマンが「あ、あの……すみません! ほんとすみません……!」などと取り繕うようなことを口走っている。バツの悪さをごまかすように、口数が多い。
「大丈夫なんで。近くで見たいなって……怪しくてすみません……でもほんと、大丈夫なんで……」
あたふた言い訳しながら、ズボンを脱いでその場にあぐらをかき、なんと自慰をはじめたサラリーマン。なんだこいつは。どう見ても怪しすぎる。
「ほんと、それだけなんで……」
怪しすぎるが、しかし威圧感とは無縁。無防備に座ることで危害を加える意思がないこともまずまず伝わってくる。
同じ男として、いち早く状況を察したのはFのほうだった。無言でゆきの尻を掴み、ゆっくり深く、腰をおしつける。目を丸くして凝視するサラリーマン。顔をそむけるゆき。
「すっごくきれいなお姉さん……ごめんなさい……こんなことしてほんとすみません! でも……すごくいいです……」
後ろから男性器を挿入されたゆきを見ながら、しこしこ手を動かしている。
「お姉さん、素敵すぎます……ほんとごめんなさい」
情けないことこの上ないが、コミカルで愛嬌がある。実際この場でもっとも避けるべきは警戒されることなので、狙ってやっているとしたら大したものだが――。
Fは彼の様子を注意深く伺いつつも、ゆきの大きな尻を抱え、腰をぐりぐり押し付ける。ゆきの顔が歪み、眉間に皺が寄る。この男をダシにして、不倫セックスをより楽しむ気になってきたようだ。
「お兄さん見たいの?」
Fの言葉に何度も首を縦にふるサラリーマン。
「こう?」
「…………っ!」
Fが腰をもう少し強く突き出すと、ゆきの口から吐息が漏れた。そんなに深く挿し込んでは、今ごろFの男性器と妻の子宮はぴったりくっついてしまっているだろう。
「はい、そうです、ありがとうございます。素敵です、お姉さん!」
大げさに喜んで見せるサラリーマン。犬に徹している。
「最高です……! おねがいします、続けてください……」
立ちバックで後ろから突かれながら、ゆきが上体を起こしFに何かを訴えかけようとするが、キスで口を塞がれる。悶えるゆき。しゃべることができない。Fの手が妻の服をたくし上げ、ブラジャーを押し下げる。
「んん……! んんん……!」
服とブラジャーの間から、白い乳房が顔を出した。先端には固く勃起した乳首。着衣に挟まれいびつに変形した乳房は、Fがゆきの尻を突き上げるたびに、ぷるん、ぷるるんと震えている。
「あぁ、お姉さんのおっぱい……可愛いです、素敵です!」
Fが妻の乳首をつまんでこねる。指でつまみ、手のひらで転がす。凝視する男。
「んぁ……だ……めぇ……! んぷ、んふぅ…………っ」
さらに突かれる。吐息が喘ぎ声に変化する。
「……はぁ、ん……! ……っ! んん……! ぁあ!」
見知らぬ男に視姦されながらのセックスに、さすがのゆきも抵抗している。しかしブルブルと首を横に振り身悶え抵抗するたびに、乳房も一緒に揺れ、かえって男たちを喜ばせてしまう。
「お姉さんのおっぱい、ぷるぷる揺れてエロすぎます。気持ちよさそう……」
言葉による辱めを受けるゆき。抵抗が勢いを失っていく。
「ん、ぷ……! んぁ……ぁん! ぁああ!」
身体を折り曲げ、壁に手をつく。快楽に身を任せ始めたのが傍目にもわかる。女性の、もっとも哀しくも美しい高みに向かう。
いくら女として、人妻として貞操を訴えかけたとしても、男性器を女性器に挿し込まれれば尻を突き出し、屈服するしかない。どれだけ普段は凛として振る舞おうとも、性の営みでは滾る肉棒によだれを垂らし、アヘ顔で男を愉しませるのが、女という生き物の使命なのだ。とりわけゆきのような美しい女性はより多くの男性を勃起させてしまうため、その身に受ける精の量も回数も増えてしまう。逃れえぬ屈辱的な運命を大人しく甘受するよう、女にはめくるめく快楽が与えられ、快楽に溺れた女は、さらなる恥辱を受ける。
屈辱を悦びと感じるマゾヒスティックな感性を与えられた女は悲惨である。辱めが過酷であればあるほど得られる快感は大きくなっていくため、理性が断固拒絶するような破廉恥で変態的な行為を、自ら進んで受け入れてしまうのだ。
*
「ァ……だめ! いく……ぁああ、だめだめだめいっちゃう……! いくいくいく……ぁああ!」
オーガズムという名の褒美を与えられている愛する妻。
この女は、ただでさえZとFの二人に慰み者にされている。彼らは、この極上女を精液便所として利用し続けるためにご機嫌をとり愛をささやく。それでまた気持ちよくなり、勘違いしてその身を捧げる日々。今もまた、名も知らぬ汗臭いサラリーマンの性欲の餌食になろうとしている。
野外セックスでイッてしまった「お姉さん」を褒めそやし、言葉で辱める男。絶頂を迎え、なお後ろから責められ続けている妻。大きな尻をパンパンパンパンと打ち据えられ、また二度三度、小さな頂に到達する。ついに腰砕けとなり、ふらふらよろめいたその先にいたのは、サラリーマンだった。
「ぁ、ぁあん……! きゃぁ……!」
「だ、大丈夫ですか? お姉さん……!」
いつの間にか立ち上がっていた男の腰にかろうじてすがりつき、転ばずに済んだ妻。髪を振り乱し、はぁはぁと息を整える妻の顔は、なんとも言えぬ色気を放っている。その美しい顔の前に、汚らしく勃起した、サラリーマンのペニスがそびえ立っていた。