寂れた宿に1人だけ-1
女将が部屋に案内して、お茶を煎れてくれる。
愛嬌があって、可愛い女性である。
『東京からですか?』
と、ニコニコ笑顔で話し掛けてくる。
野田は、ティッシュペーパーに5,000円札を包み、女将に渡す。
最初は固辞したものの、無理矢理、女将の手に握らせる。
『ありがとうございます。』
と、女将は受け取った。
『食事はお出し出来ませんが、その代わり、温泉は24時間、いつでも入れますので。』
と、言う。
『この近くに、食事をするところはある?』
と、聞いてみる。
『えっと、そうですね、今、観光用の地図を持って参りますね。』
そう言って、女将が部屋から、いったん出ていった。
5分ほどで、女将が地図を持って、部屋に戻ってくる。
そして、レストランなどの食事処に印をつけてくれる。
女将が前屈みになると、トレーナーの背中に、ブラジャーが透けて見える。
どうやら、トレーナーの下は、ブラジャーだけのようだ。
そして、再度、食事を提供できないことを詫びてくる。
どうも、この宿は、この女将と旦那、そして旦那の母親の3人できりもりしているらしい。
家族経営なので、仲居などは雇っていない。
旦那が板長として、食事を作っていたのだが、その板長が、もう1か月近く入院しているので、今は、素泊まり限定でのみ、予約を受け付けているとのこと。
旦那の母親は、もう高齢で、足腰も弱っていて、部屋から出てくることもなくなって、実質、目の前の女将が1人でやっているようだ。
『あと、何かお聞きになりたいこととか、ございますか?』
『う〜ん、やっぱり、男の1人旅なんで、女性と遊べるところは、どこかないかな?』
『そうですね、陽が暮れるまでは、まだ時間がありますので、ちょっとお時間をいただけますか?詳しい人に聞いてみます。』
と、部屋から女将が出ていった。
情報収集に行ったのだろう。
野田は、浴衣に着替えて、温泉に行く。
他に客はいないのだから、完全に貸し切りみたいなものである。
日本3名泉のひとつだけあって、温泉はニュルニュルしていて、凄く良かった。
『これは、下呂まで来た甲斐があったな。』
と、野田は満足した。
草津なんかとは、ちょっとひと味違う温泉の質に、野田は大満足していた。
野田は、浴衣のまま外に出て、近くの食堂で晩ご飯を食べる。
飛騨牛のステーキなど、名物がいくつもあったので、それらを注文する。
食事を終え、宿に戻ると、女将が、
『お帰りなさい。』
と、出迎えてくれる。
『食事はないですが、ビールか日本酒でしたら、ご用意できますので、ご希望でしたらお申し付けください。』
と、言う。
『じゃあ、ビールを部屋に運んでくれる?』
と、お願いをする。