逮捕-1
悠子はインカムのスイッチを入れ、
『篠山から全員へ、そろそろ被疑者達の会合時間です。それらしい人物、車両が到着したら連絡して下さい。』
とインカムで伝える。捜査官達から
『了解。』
『了解です。』
などと各々の返答が来る。悠子は、
【詐欺組織も菅原組もギリギリまで来ないかも。】
【お互い、どこかで相手の様子を見てるんだわ。】
と考えた。それから5、6分経って組対課の指揮官より、
『菅原組所有のワンボックスカーがアパートの前に止まりました。』
と連絡が有り続けて、
『川地、安岡、豊川の3人が降りて車は去って行きます。』
『車はアパート入り口から50m先で止まっています。』
と報告が有る。悠子は、
『篠山、了解です。』
と返答すると緒方から、
『同じ様な黒いワンボックスカーがアパート入り口近くに止まりました。』
『菅原組の連中はそのワンボックスカーを見ています。』
『城田が降りて来ました。他に新顔の2人がいます。』
『菅原組の安岡が城田達に何か言っています。』
『詐欺組織のワンボックスカーが去って行きます。』
と報告して来る。悠子が、
『篠山、了解です。』
と答えると緒方が少しして、
『詐欺組織の車はアパート入り口から50m位離れて反対車線に止まりました。』
『詐欺組織の1人が神木に見えます。』
とやや興奮した様に話す。神木は詐欺の他、不正アクセスによる仮想通貨盗難やネット銀行口座の預金不正引き出し、クレジットカードの不正使用などにも関わっていると思われる中心人物だ。
その正体は不明で不鮮明な写真が数枚有るだけだった。神木と言う名前も偽名と思われた。悠子は、
『篠山、了解。』
『アジトの部屋に入る時の写真を本部に送り照合を要請するわ。』
と返答する。スマホを取り出し、本部に画像照合の準備を要請する。アジトの部屋から電話の着信音が聞こえてくる。悠子が耳を澄ますと、
『はい、今からですか。』
と確認する様に聞いている。そして、
『ええ、鍵を開けてドアの所で待っています。』
と部屋のメンバーが答え、通話が終わった様だ。今から来る詐欺組織のメンバーが事前に連絡したのだろう。
部屋のメンバーが引き戸を開けてドアの方に向かっている音がする。数分で詐欺組織のメンバーと菅原組の川地達がやって来た。両方とも3名ずつの合計6人だ。
詐欺組織のメンバーの1人が緒方が言っていた通り〈神木〉に見える。悠子のスマホを持つ手に思わず力が入る。
城田が部屋のドアをノックすると、すぐに開き全員中に入っていく。悠子は、すぐに動画データを転送し、スマホで連絡する。
『今、動画データを送りました。』
『ええ、30才前後身長175cm位の黒髪の男です。データと照合願います。』
と要請する。ヘッドホンからドアや引き戸を開ける音や足音が聞こえてくる。人数が多いせいか結構うるさい。
『客が来るのに、椅子も用意してねえのか‼』
と安岡の怒鳴り声がする。
『話し合いが上手くいけば、すぐ終わる。』
と城田の声がする。
『どっちが小栗だ?』
と川地の声がする。柔らかい、少し高い声が、
『私が小栗です。川地さんですか?』
と聞いている。川地が、
『ああ、そうだ。』
『早く済ませたい、他にも用があるんだ。』
『6対4でどうだ?』
『お前のとこは4だ。』
と言う。すぐに、
『上がりの集計に人寄越すぞ。』
と豊川が付け加える。小栗が、
『こっちはリスクを全部被る。4じゃ合いませんよ。』
と言い城田が、
『俺達だけで回す。』
『あんたのとこの人間はいらない。』
と拒否する。安岡が怒鳴り声で、
『ならお前ら潰すぞ‼』
『俺達ゃあ、金子と違って徹底的にやる。』
『お前ら始末するまで止めねえぞ!』
と脅している。城田が、
『威勢が言いな。』
『その金子も、川谷も抑えられないくせに。』
とせせら笑う。安岡が唸る様に、
『テメェ、もう一度言ってみろ‼』
と動く音がする。川地が、
『止めろ!』
と一喝する。ヘッドホンからも室内の緊張する空気を感じる。川地が、
『お前ら、金子とお互い死人まで出してるそうじゃねえか。』
『あいつらも看板しょってんだ。引くに引けねえぞ。』
『あいつらと揉めてたんじゃ、お前らも商売出来ねえだろ。』
『俺が仲を取ってやろうか?』
と言う。小栗が、
『仲裁出来るんですか?』
『菅原も金子と揉めてるんでしょ?』
と懐疑的な様子だ。川地が、
『ああ、出来る。』
『金子の山城の跡目を後押しするからな。』
と話す。少し間が有り小栗が、
『金子との仲裁を条件にして。』
『5対5の半分づつで。』
『そちらの人は入れないが、週毎に上がりを報告する事でどうです?』
と話す。菅原の3人が小声で話し合っている見たいだ。
その時悠子のスマホが振動し電話の着信を知らせる。先ほど送った〈神木〉と思われる画像の照合結果だった。
資料の画像が余り鮮明では無いが70%の確率で本人との事だった。悠子はインカムで、
『篠山から全員へ、神木と思われる人物の照合は7割で本人と出た。』
と伝える。緒方始め捜査官達が、
『了解。』
と返答する。話し合いが終わったらしく川地が、
『良いだろう。』
『5割の上がりを納めてくれ。』
『週毎の報告、豊川にしてくれ。』
と了解した。豊川が、
『アジト別、地区別の集計も週毎に報告を。』
と続けた。