ある日、隠れ家に-1
1週間経っても、1万円は送られて来なかった。
この件について、忘れかけていた10日目。
野田は、仕事終わりに、隠れ家に向かった。
いつものように、食べ物や酒を買って、隠れ家のマンションに向かう。
駐車場に車を停めると、人影が近寄ってきた。
よく見ると、玲奈だった。
『?????』
『お金を返しに来ました。』
どうやら、住所を頼りに、わざわざ野田の隠れ家まで来たようである。
<なんという律儀な子だ>
と野田は思った。
『郵送で良かったのに・・・』
『いえ、きちんと手渡しでお返しするのが礼儀かなと思って・・・』
『汚い1人暮らしの部屋だけど、入ってお茶でも飲んで行って!』
野田が言う。
玲奈は、迷う様子もなく、
『はい。』
と、返事をする。
部屋に入り、野田がお茶を出す。
『お一人で生活されてるんですか?』
『そう、ずっと女性に縁がなくてね、、、』
野田は結婚していることは隠した。
『私と同じですね(笑)』
と、玲奈が笑う。
『私、彼氏いない歴=年齢なんです。』
と言う。
<じゃあ、まだ処女なのか?>
と、野田は考える。
『ここまで、どうやって来たの?』
『石神前駅から、歩いて・・・』
『え? あんなところから?』
『はい、3時間ちょっとかかりました。』
野田は、玲奈の律儀さに驚かされる。
『帰りは駅まで送るから。』
『ありがとうございます。』
その後、玲奈の趣味のアニメの話を聞かされる。
野田は、ほとんど分からないが、適当に相づちをうち、適当に質問をし、適当に驚いてみせる。
玲奈は、楽しそうに、アニメの話をする。
女性の話を聞くだけではだめだ。
適当に質問をすることによって、相手の女性は、更に説明に力が入る。
要は、話好きの女性に、もっと話したいと思わせることが肝心である。
夜の7時近くになっている。
『そろそろ帰らないと、家の人が心配するんじゃない?』
『大丈夫です。1人暮らしなので・・でも、今日は、そろそろ帰ります。』
玲奈を車に乗せて、駅へ向かう。
『玲奈ちゃんと話をしてると、楽しかったよ。もしよかったら、また遊びに来て!』
『え、本当ですか? 来週から文化祭で大学が休みになるので、また来てもいいですか?』
『もちろんだよ。』
『学校には、アニメの話題で盛り上がれる友達がいなくて・・。』
2人は、ラインを交換して、駅で別れた。