月滅剣-3
目の前に熊がいる。それが恐ろしい事ではない
恐ろしい事は…その大きな熊の左胸を手で貫いている
女がいるということだ。
『な…な…』
女の細い手は完全に熊を貫いており熊は鋭い目つきのまま声も上げずに死んでいた。
『ようやく来たのか』
男の心に語りかけていた声と同じ声だ。
女の目はガラス玉のように男をみていた。まったくの無表情でカラーコンタクトでもしているかのように緑がかった目をしていた
『なんなんだよ、一体…』
『ああ、これか?晩飯だ。』
『お、お前はなんだよ…俺が何したっていうんだよ!!』
『選ばれたのだ…月の子達に』
階段の上には小さな小屋がひとつあった。神社のような建物を予想していたがとても質素なものだった。
『入れ』女がいう
『まず始めにこの世界の事を話しておこう。この世界はお前の住んでいる世界とは別のものだ。まぁ『異次元』や『異世界』のようなものだ
『そんなことが信じられるか、だいたい言葉が通じるのがおかしいだろ』
『同じなのだ』女は続ける
『お前がすんでいる世界とこの世界は所謂パラレルワールドのようなものだ。何故二つの世界ができたのかはわからないが。お前が通ってきた扉がこの世界につながっているのだ。言葉も、文化も、信教もお前の世界と似たようなものなのだ』
『信じられるか、んなもん』
『それはともかくとしてさっき月の子達に選ばれたとか言ったな。それはどういう意味だ?』
『お前には私と同じ、呪われた血が流れている』
熊の死骸には蝿が集っていた…