ノイシュヴァンシュタイン城へ-1
翌朝、ホテルで朝食を食べてから、ちょっと遠出をすることにした。
裕哉は、明日、帰国する。
麻衣は、明後日の帰国なので、まずは、ホテルの目の前のミュンヘン中央駅に行き、切符売り場の窓口に向かう。
『麻衣ちゃん、明後日、フランクフルトから帰国だよね?』
『はい。』
『フランクフルトを何時に出る便?』
『お昼の3時半です。』
裕哉が、窓口で何かを伝え、チケットを買っている。
『麻衣ちゃん、はい、これ!』
と言って、麻衣にチケットを渡す。
『明後日、ここから朝の8時44分に出る電車に乗れば、フランクフルト空港に12時21分に着くから。』
と、言う。
『え、、ありがとうございます。』
と言い、更に、
『せめて、このチケット代ぐらい、私に出させてください。』
と、財布を出す。
裕哉は、お金を受け取らない。
結局、麻衣は日本を出てから、ほとんどお金を使っていない。
個人的な、こまごまとしたお土産ものを買ったぐらいである。
『今日は、ちょっと郊外まで行ってみたいけど、いい?』
『はい。』
さっき麻衣のフランクフルト行きのチケットを買う時に、一緒にバイエルンチケットも購入していた。
バイエルンチケットというのは、ミュンヘンおよびミュンヘン郊外のバスや路面電車、鉄道、地下鉄などが乗り放題になるチケットである。
駅のホームには、ドイツが誇る高速鉄道ICEが停車している。
『あの電車、格好良いですね。』
と、麻衣が言う。
『明後日、麻衣ちゃんが乗るのも、あのICEだよ。』
『え、、そうなんですか?』
『そう、ここを出たら、乗り換えも無しで、フランクフルト空港が終点だから、1人でも大丈夫でしょ?』
『はい、大丈夫だと思います。』
そのICEを横目に、赤色のローカル鉄道に乗り込む。
ミュンヘン中央駅を出て、30分もすると、長閑な田園風景が広がる。
途中、乗り換えが1回あって、都合、2時間ほどかけて、フュッセンという駅に到着。
ここで、ほとんどの乗客が降りる。
そして、そのほとんどの乗客が、駅前に停車しているバスに乗り込む。
バスで10分ほどで、大きな公園のようなところに到着した。
大きい公園のようで、園内をバスが走っている。
今度は、そのバスに乗って、マリエン橋というバス停で降りる。
橋の中央まで歩いて行き、視界に突然入ってきたのが、ノイシュヴァンシュタイン城である。
ディズニーランドのシンデレラ城のモデルになったと言われる、美しい城である。
この橋から眺めるノイシュヴァンシュタイン城が、もっとも綺麗だと言われている。
麻衣は、
『凄い!!』
と、興奮している。
そして、言葉もなく、ずっと見とれている。
この橋で、ノイシュヴァンシュタイン城を背景に写真を撮っている人、そしてキスをしている観光客までいる。
麻衣が、それを見て、
『裕哉さん、キスしてください。』
と、言う。
ノイシュヴァンシュタイン城を背景に、2人はキスをする。
キスをしながら、麻衣の背中に手を回す。
ブラジャーのホックの感触が、裕哉を欲情させる。
しかし、麻衣はそれ以上に興奮していた。
その後、園内のカフェで遅い昼食をとる。
もちろん、ビールを飲みながら。
食事を終え、ちょっとだけ園内を散策する。
麻衣は、ずっと裕哉と手を繋いでいる。
2時間ほど滞在して、来た時と同じルートで、ミュンヘンに戻る。
帰りの電車の中でも、麻衣はずっと裕哉の手を握っていた。
明日、裕哉は日本に帰国する。
麻衣の心は、ちょっと落ち着かない。
1人でミュンヘンに取り残される不安ではなく、裕哉と離れてしまう寂しさから、悲しくなってしまうのである。