盗聴器-5
緒方は、
『そうですか。でも状況を良く解りましたね、櫻井さん。』
と言う。悠子は内心ドキッとして、
【まさか、自分の隣で聞いていたとは言えない。】
と思いながら平静を装い、
『仕切りが襖だし、かなりの地獄耳だわ。』
『みんなも注意してね、重要な情報の電話とか!』
と言うとみんな笑いながら頷く。悠子は緒方を見て、
『報告の邪魔したわね。緒方さん、お願い!』
と促す。緒方は待ってましたとばかりに、
『ホワイトボードの写真ですが、どうやら各詐欺グループの進捗状況です。』
と話し、机に置かれた6、7枚の写真を悠子に示した。悠子はA4サイズに引き伸ばされた写真を手に取り頷いた。
『うん、確かに。1番上が区名でその下にその区にある地名。左にある番号が日付けか、1から31まで有るし。』
『日付けの横の数字が詐欺で得た金額でしょうね。』
『今、我々が把握している6ヶ所とも地名が
符号する。後、4ヶ所有るのか?』
と言うと緒方が、
『そうです。ただ地名だけでは雲を掴む様な話しですし、アパートのアジトの訪問者から尾行しないと見つけられないと思います。』
と言う。悠子も頷き、
『そうね。あのアパートのアジトの訪問者しか発見の手掛かりが無い。全ての詐欺グループを解明したいけど、そこまで時間的余裕があるかどうかね。』
と言うと全員頷く。詐欺グループはいつアジトを退去してもおかしく無い。いつまでも内偵捜査は出来無い事は、みんな分かっていた。瀬戸が写真を見ながら、
『あのアジトは、この詐欺組織の全グループの実績記録室と言った所でしょうか?』
と聞く。悠子は頷き、
『そうだと思う。そして、ホワイトボードに貼られている用紙はグループの数だけある。』
『左がメンバーの記号、その右横が詐欺で得た金額、その右横がそのメンバーの報酬じゃないかしら?』
『用紙の上に先月の表示があるから、先月のメンバー毎の成績と給料ね。』
『多分、あのアジトはメンバーの給料計算もしてるのよ。』
と言う。緒方が頷きながら、
『私もそう思います。メールなどで各グループから実績を暗号とかで送られて来るのでしょう。』
『そのデータを元にアジトの男がホワイトボードに実績を書き込んだり、メンバーの給料計算をしていると思います。』
『しかし、ホワイトボードや数人とは言えグループメンバーの交流が必要でしょうか?その理由が解りません。』
『連中は常に手入れを警戒して活動しています。組織の全ての状況を書き込んだホワイトボード、そのホワイトボードの有る部屋でわざわざ危険を犯して違うグループメンバー同士の交流。』
『連中らしく無い気がします。慎重さが無い。』
と言うと他の捜査官達も頷く。悠子は緒方を見ながら、
『私に一つの仮説がある。』
と言うと緒方が、
『是非聞かせて下さい。』
と興味を示す。全員悠子を見て頷く。悠子は、
『あの詐欺組織は今かなりの危機に晒されているのでは無いかと思うの。』
『捜査機関より危険な脅威が有り、リスクを犯してあのアパートのアジトに集まりホワイトボードを見ながら詐欺行為の全面撤退を模索してるんじゃないかしら。』
『ホワイトボードで詐欺で騙し取れる金額が落ち込み始めたら、若しくは脅威が増したら一時的かも知れないけど、撤退を始めるかも。』
と言うと瀬戸が、
『連中の脅威とは、何でしょうか!』
と聞いてくる。悠子は頷きながら、
『山城と言う広域暴力団松方組の最高幹部の組長を知ってるわよね?』
と言うと瀬戸も他の捜査官達も頷き緒方が、
『詐欺組織の元締め、黒幕と言われている人物です。証拠が不十分で起訴出来ませんでした。』
と答える。悠子も頷き、
『そう。これは組織犯罪対策捜査課の知り合いに聞いたんだけど、最近山城は後継者争いに敗れ引退させられたらしい。』
『まだ組織内外に知らされてないわ。他言無用よ!』
と言うと全員驚き、
『あの山城が!』
『ほぼ後継者は山城で決まりと言われていたのに‼』
などとビックリしている。悠子は、
『詐欺組織は山城の直轄管理と言われていた。私達が追っている詐欺組織も山城の配下だったとしたら?』
と聞く。緒方が、
『引退した山城には詐欺組織の後ろ盾は出来無いでしょう。別の後ろ盾を見つけるか、詐欺行為を止めるかでしょう。』
『ただ、連中がやめる事を松方組は許さないと思います。連中は金の成る木ですから。』
と答える。悠子は頷き、
『私もそう思う。連中は既にプレッシャーを受けているでしょう。山城組も後目を巡って揉めているとか、その揉めている幹部達か山城を引退させた菅原か。連中の脅威はその辺りかも。』
と言うと部下達は、
『武闘派の菅原が松方組の跡目か。』
『警察にも敵対的な男だ。』
等とザワ付いている。悠子は、
『山城は詐欺組織に組員を入れず。運営も自由にさせ、報酬もはずみ組織を急成長させたと聞く。』
『他の誰にせよ、山城と同じ様に詐欺組織を運営させ報酬を与えるとは限らない。』
『むしろ、そうでは無いからリスクを犯しあのアジトで話し合いをしてると私は見ているの。』
と悠子は一息つき、部下達を見て続ける。
『これは推測に過ぎないわ。それが正しいかどうか盗聴器が教えてくれるでしょう。』
と言うと全員頷く。悠子は他に報告•意見を求めるが無い様なので話し合いを終わらせた。