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キョウゴ
【その他 官能小説】

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アヤノ-15

『…そうですか。きっと辛い治療なのでしょうね…。』
「肉体的にも辛いでしょうが、精神的にはもっと辛いでしょうね。綾乃さん、実はあなたに預かってきた物があるの…。」
そう言って姉さんが鞄から取り出した物は、裏表何も記されていない、白い封筒だった。
「川上 修が…あなたに宛てた手紙なの。読むも捨てるも、あなたの自由よ。選びなさい。」
『……………』
綾乃は封筒を受け取ると、無言のままうつ向いてしまった。
「じゃぁ、私はこれで失礼するわね。」
最後に
「コーヒーごちそうさま。」
そう言って彼女は去って行った。

彼女は手紙を開くのだろうか…。
そして手紙には何が書かれているのだろう…。
「手紙…、読まないのか??」
俺は静かに問掛けた。
『私……、この手紙に書かれている内容がどんなものでも、決めた事があるんです。』
「君の未来についての事かい?」
それはすなわち、俺と彼女2人での生活の終りを意味する。
『…はい。聞いてもらえますか??』
「もちろん!」
兼ねてから決めていた事だ…。彼女が自分の歩む未来を選択した時、俺は彼女の前からはいなくなろうと。ただ…その時が、思っていたより…ちょっと早く来ただけさ、俺は自分にそう言い聞かせた。
『この1週間、私は本当に恭吾さんという存在に助けられました。恭吾さんがいなかったら…きっと私は、私に負けていました。修が…彼が罪を償う間、私は彼を支えてあげたいんです。恭吾さんが私にしてくれた様に…。彼が私のした事を、許してくれるかはわからないけど、彼が自分の罪を償うのなら、私も自分の罪を償います!彼の治療や償いには時間がかかると思うし、きっと途中で投げ出したくなる時もあると思う……そんな時、側にいる事は出来なくても、彼を励ましてあげたいんです。そして彼が償いを終えて帰ってきた時、私が修の居場所になってあげたいんです!!』
「………君は本当に強いこだね。そんな所まで、君は藍にそっくりだ。」
彼女の透き通った瞳は、真っ直ぐに俺をみつめた。
自分の足で未来へと歩き出したその瞳が、もう曇る事はきっと無いだろう。
結局、彼女の涙を止めたのは、俺ではなく彼女自身の強さだった。
『本当にありがとうございました。』
彼女は俺に、深々と頭を下げた。
俺の役目もきっとここまでだろう。
だが彼女のために、最後にもう一仕事してみてもいいかも知れない。
「その決心、彼に伝えてみないかい?」
『出来るんですか!?!』
彼女は驚いた様に目を見開いた。
「俺の職業知ってる?麻薬取締官だよ?!君の為なら職権乱用位どうって事ない♪」
そして俺は彼女に手紙を書かせた。通常、事件の当事者である彼女が手紙を渡す事は許されないだろう。
だが、麻薬取締官である俺が彼に面会をすることはさほど難しくはない。そして、俺は彼女からの手紙を、彼にこっそりと渡す事になるだろう。

「じゃぁ、直ぐに行こうか。」
俺は彼女を助手席に座らせ、愛車を発進させた。行き先は大島 綾乃宅 経由、東京拘置所。
「もう部屋に1人でも大丈夫かい?!」
『えぇ!私はもう未来を決めました!それに、恭吾さんからたくさんの強さを貰いましたから。』
そう言って微笑んだ、彼女の笑顔が眩しい。
「俺も君に、色々な物をもらったよ。ありがとう。」
『恭吾さん、私…恭吾さんにも幸せになって欲しいです。』
そう言った彼女の表情は、真剣そのものだった。そんな言葉に、俺は苦笑いを返した。
「俺は今でも十分幸せだよ?さっ、もう君の部屋に着いた。」
シリアス過ぎるお別れは好きじゃない。
もう会う事がないとしても、最後は笑顔でいよう。
「手紙は必ず彼に渡すよ。」
『本当に、色々ありがとうございました。』
俺は本当の日常の待つ部屋へと帰って行く彼女に手を降った。
「元気でね…。」


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