投稿小説が全て無料で読める書けるPiPi's World

キョウゴ
【その他 官能小説】

キョウゴの最初へ キョウゴ 15 キョウゴ 17 キョウゴの最後へ

アヤノ-12

こうして、俺と彼女2人での生活が始まった。
溜め込んでいた有給休暇を使い、俺は出来る限り彼女と共に過ごした。
事情を察していた上司の永井さんが、あっさりと有給の許可を出してくれた事には、本当に感謝した。
2人で近くのスーパーに買い物に行き、料理が好きだという彼女の指南の元、俺も彼女の料理を手伝った。
そして完成した手作りの料理で食事を一緒にとり、他愛の無い会話を楽しんだ。
晴れた日には公園に足を運び、おもいっきり日光浴を満喫した。
他にも借りてきた映画を見たり、2人一緒に部屋の掃除したり、彼女と過ごす日常は本当に楽しいものだった。
そして夜になり彼女が瞼を擦り始めれば、すぐ横で彼女を抱くようにして眠った。
周りからすれば、俺達はどう見たって恋人同士だろう。だが、俺と彼女は恋人同士ではない。
事情を知る人間が俺達を見れば、傷を負った2人が、互いの傷を舐めあっているだけのように思えるだろう…。

そんな日々が1週間続いた。
しかし俺と彼女の生活が始まって丁度1週間目の夜、今まで守ってきた只1つの一線を、俺は越えてしまった。

すやすやと寝息をたてる彼女の傍ら、俺は眠気を呼ぶために文庫本を開いていた。
『んっ、んん。』
それまで安らかな寝顔で眠っていた彼女の表情が曇った。
「どうした?」
悪い夢でも見ているのだろうか。彼女の寝息が次第に荒くなるのがわかった。
『い…や……、やめ…て…。』
彼女閉じた瞼の端からは涙が溢れている。
「綾乃?大丈夫か?」
だが彼女はなおも悪夢の中をさ迷っているようだ。
「綾乃!綾乃!」
俺は彼女の肩を揺らし、目を覚まさせようとした。
『いやぁ!!』
と、突然大きな声をあげた彼女は、ベッドから跳ね起きると、そのまま俺にしがみついた。
『しゅ…修が…、死んじゃう…夢を、見て……。私の恐くて…、すっごく恐くて…。』
彼女の肩は震えていた。
何かに脅える様に体を丸め、必死になって俺の体を引き寄せている。
「大丈夫。彼は死なないよ。」
俺は優しく言った。
『……恐い。…恐いよ。』
いつものように俺は、掌を彼女の頭に乗せ、彼女をなだめるように髪を撫でた。
『……恭吾さん。』
長い沈黙の時間が流れた後、彼女が俺を呼んだ。
「大丈夫かい??何かして欲しい事は?」
『…………抱いて下さい…。私を抱いて…。』
絞りだす様な声だった。だがその言葉は、俺の聞き間違えではなかった…。
おそらく、彼女は俺に鎮静を求めているのだろう。どうしようもない恐怖に襲われ、その恐怖のやり処に困っているのだ。
「…わかった。」
戸惑いはあったが、俺は彼女の求めに応じる事にした。
彼女の震える肩を抱き、流れた涙を拭う様に頬に口づけた。
『うっ、くっ……、ひっく……。』
「泣かないで……、綾乃。」
俺の唇だけでは拭いきれない程の涙だった。
彼女の涙に込められたものは、今は手の届かない場所にいる恋人への想いだろう。
恋人の存在は、それだけ多くの…彼女の心の割合占めているのだろう。
『……助けて……。』
不意に彼女の唇から溢れた言葉だった。
俺はその唇を塞ぎ、強引にも思える動作で彼女の声を遮った。
もうこれ以上、彼女の苦しむ姿を見たくなかった。
そして俺は彼女の唇を割り、口内に舌を滑らせた。彼女は抵抗する事もなく、俺のキスに答えた。
俺の舌を追うように動く彼女の舌は柔らかく、とても暖かだった。
『…んっ。』
俺の口内へと誘い込んだ彼女の舌を、俺の歯列が捕えた瞬間だった。
彼女の唇から、熱い吐息が漏れた。


キョウゴの最初へ キョウゴ 15 キョウゴ 17 キョウゴの最後へ

名前変換フォーム

変換前の名前変換後の名前