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下屋敷、魔羅の競り合い
【歴史物 官能小説】

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艶之進、唸る肉刀-6

 差し出された丸まった袱紗(ふくさ)。おそらく小判が数枚入っているだろう。昨今は旗本も遣り繰りに苦しいと聞いてはいたが、さすが大身旗本の松平家、裕福なものであった。

 一時の騒動で綾乃と枕を共にする時刻は少し遅れることになったが、艶之進はまた控えの間にて待機していた。軽い夕餉とともに茶菓が出されたが、菓子は砂糖漬けにした黄精とやらで、精力剤とのことだった。これを食って綾乃に滅私奉公せよとのことらしい。
 艶之進は老女の部屋に忍び込み、文箱から五十両の手形を抜き取り姿をくらまそうかと思ったが、先刻の力蔵騒ぎの影響で屋敷内にまだ警護の侍たちが数名いたので、大人しくしているしかなかった。
 そして、外の闇が控えの間にも色濃く浸透し始めた頃、用人が姿を現し、「刻限でござる。いざ、参られよ」と告げた。
 こうなれば仕方ないと腹をくくった艶之進は、用人の後について綾乃の寝所へ続く長い廊下を歩いていった。しかし広い屋敷である。下屋敷でこの規模ならば上屋敷の大きさはいかばかりかと思われた。

「ここより先は一人で参られよ」

 廊下の曲がり角で言われ、用人と別れた艶之進がそのまま進むと、夜目にも豪奢な襖の前の暗がりに老女の嵯峨野が控えていて、襖越しに室内に告げた。

「江戸一番の床師が参りました」

 すると、中で綾乃の応答が聞こえ、老女の手で襖が開けられた。嵯峨野が入れと目で合図したので従うと、室内は何本もの燭台が置かれて明るく、豪華な調度で溢れていた。螺鈿の施された箪笥、大きな獅噛み火鉢、凝った作りの鏡台、典雅な琴、そして贅を尽くした三つ布団。話に聞く遊郭吉原の花魁の部屋のようであった。ひとつ違うのは壁に陰陽の絵馬(魔羅と女陰を描いた絵馬)が掛かっていたことだ。
 布団の上では綾乃がすでに全裸で寝そべっており、余人はいないと思いきや、部屋の隅に初老の男が一人かしこまっていた。艶之進がいぶかっていると、綾乃が笑いながら言った。

「これなる男は絵師じゃ。わらわとおぬしの交合を描いてもらうために呼び寄せた」

「え、絵師……でござるか?」

 驚く艶之進を尻目に、絵師はおもむろに畳へ紙を広げ、墨壺と筆を用意し始めた。

『これはしたり。交情を絵に残すだと? ……座敷格天井の女陰の絵、幔幕の春画、そして陰陽の絵馬と、綾乃の悪趣味には色々触れてきたが、これから始まる性行為を描かせるとは……何たる俗悪』

 心の中で毒づく艶之進だったが、綾乃は素知らぬ顔で枕元の大ぶりの銚子を取り上げ、直接口を付けて呷(あお)った。

「うーん、美味い。葡萄酒に蜜柑の輪切りと桂皮を入れたものじゃ。おぬしも飲むがいい。交合前の景気づけじゃ」

 銚子を差し出され、艶之進は恭しく頂き、一口飲んでみた。蜜柑と桂皮と言ったが、その他にも得体の知れない物が入っているようで、えらく漢方臭かった。

「どうした、舶来ものの酒じゃぞ。紅毛人の肌のごとく血の巡りが良くなるゆえ、遠慮せずにもっと飲むがいい」

 じっとりとした眼差しで言われ、艶之進はもう一口、いや、二口飲んだ。

「さて、以前申したように、今宵わらわを狂い逝きさせ屈服せしめれば、おぬしを当家閨房指南役に取り立ててやろう。一意奮闘、励むがよい」

「……ははっ」

 艶之進が喜びを取り繕って答えると、裸になれと言われ、従うと、布団に仰向けになれと言われ、それにも従うと、綾乃はニンマリした顔を近づけてきた。

「こうして見ると結構男前じゃな。ふむ、悪くないぞ。そして……」綾乃の顔が下半身に移動する。「こちらは紛うことなき男前の魔羅じゃ。しなびておってもこの形……、立てば芍薬ならぬ赫々たる剛直になるのが約されておる。ふふふ、わらわが立たせてやろうぞ」

 綾乃がいきなり覆い被さって一物を頬張り、強く吸い始めた。そして、二つ巴(男女が互いに秘所を舐め合う体位)の格好をとって艶之進の眼前に(高貴な?)女陰を近づけた。綾乃が吸茎をしながら「何をしておる、おぬしも奥の院を舐めるのじゃ、早うせい!」と急かすので、これもお勤めと従えば、そこの風味は下々の女のものと変わりはなく、最前より興奮していたものか、汁気はたっぷりであった。

「うーん、さすがは江戸一番の魔羅。こうして漲(みなぎ)れば豪儀じゃのう。太さ、長さは申し分なく、雁高ぶりは桁外れ。昨日の第三戦に於いて腰元の凜が立て続けに逝ったのも、むべなるかなじゃ。これは早う下の口にて味わいたいのう」

 早く交接したいと口走るわりには、いつまでも魔羅への口唇愛撫をやめない綾乃。時折、さっきの葡萄酒を口にしながら吸茎するので、一物は紫色に染まったりしていた。その姿を絵師が素早く描きとっているようだ。交情を他人に見られると勃起不全になる男もいるが、魔羅くらべに出るほどの艶之進ともなると絵師の存在はほとんど意識の外であった。が、今宵の絵が綾乃の手から絵双紙屋(浮世絵などを摺って販売する店)へと渡り、版画となって広く流布することにでもなれば困ったものだと苦笑いした。
 そうしているうちに、いよいよ綾乃も我慢ならなくなったか、対面の本茶臼(騎乗位)で交合を始めようとした。魔羅に片手を添え、腰を落とす。
 熱を帯び、ぬるっとした肉の感触が魔羅全体を包む。綾乃が腰を揺り動かすと膣が喜んで肉棒にまとわりつく。しかし、昨日の凜の締まりのよい女陰に比べればゆるい感じで、魚に例えれば、凜の膣は初鰹の新鮮さと戻り鰹の脂たっぷりの旨味を兼ね備えた極上品で、綾乃のほうは下魚の鮪とまでは言わないが、やや劣る味わいだった。それゆえ、魔羅は長持ちしそうで、そうなると綾乃を長く悦ばせることになり意に反するので、艶之進は努めて感じよう、感じて早く果ててしまおうと自分に言い聞かせた。


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