艶之進、唸る肉刀-2
含み笑いをする用人に、艶之進は質問した。
「腰元にしごいてもらう、とのことですが、その腰元は、こちらで選ぶこと叶うものでしょうか?」
「選ぶじゃと?」
「最終戦ともなれば、用人どのも仰せの通り、魔羅は疲労困憊。なまなかなことでは立ちませぬ。せめて、好みの腰元の手にて、しごいてもらいとうござります」
用人は困った顔になり、魔羅くらべの主催者の顔色をうかがった。それを受けて綾乃は鷹揚に言葉を発した。
「好みの腰元とは誰のことじゃ?」
「……そこで伏しておられる凜どのでござる」
凜は、ハッとして居住まいを正そうとした。
「凜どのが相手してくだされば、疲弊した拙者の一物でも勇躍するはずでござる」
綾乃は意味ありげに目を細めて艶之進を眺めていたが、一度うなずくと、こう言った。
「決勝の腰元は、あらかじめ新たな者を用意しておった。当家とびきりの美女二人をな。その者たちの容姿を目の当たりにしても自説を曲げぬというのであれば、艶之進、おぬしの言い分を聞こう。……二人をここへ」
綾乃の命を受け、用人の指図で新たな二人の腰元が姿を現した。丸裸である。
二人とも大柄で肉付きよく、器量は極上であった。姿絵(美人画)から抜け出たかのような腰元を目の前にしては、艶之進も迷うであろうとは、誰もが思うところであった。しかし、彼はこう答えた。
「いやはや、確かに、すこぶる付きの美人。なれど、やはり拙者は凜どのを介添えに所望いたす」
裸のまま正座していた凜は面(おもて)を伏せていた。だが、その表情には嬉しさがありありと浮かんでいた。
「当家筆頭の別嬪を袖にするとは艶之進、おぬしは奇特な男じゃのう」
綾乃は乾いた笑い声をたてた。そして今度は、小夜之丞に目を移した。
「おぬしはいかがする?」
「はあ……、迷いまするな……」やさ男は、しばらく斜め上を見ていたが、視線を戻すとこう言った。「せっかくのお膳立てなれど、あたしも、これまでの腰元の中から選ばせてもらいとうございます」
「誰を選ぶ?」
「満さんを……」
「満?」
皆が同時に驚いた。豊満を通り越して女相撲の力士もかくや、という体つきの腰元である。
「人の好みは百人百様と申すが、確かにそのとおりじゃなあ……」
綾乃は、さも可笑しそうに笑っていたが、「あい分かった。おぬしらの好きなようにいたせ」と言い、用立てた腰元二名を下がらせた。
気がつけば、西の空の雲が茜色を帯び、やや涼しい風が吹き始めていた。
用人が早口で言う。
「決勝は屋敷内に戻って執り行う。飛ばした精液が風に流されてはいかぬからの。さあ、皆、奥座敷へ移られよ」
小夜之丞はそそくさと着物をまとい、足早に幔幕の外へと出ていったが、艶之進は凜のもとへ近づき、「お疲れのところ相済まぬが、決勝では介添え、よろしく頼みもうす」と声を掛け、続いて二倫坊にも近寄ってこう言った。
「残念であったな。本来であれば拙者とともに決勝へ進んだものを……」
「なあに、気にするな。おれの腰が脆弱なのがいけねえのさ。それに、じつは、さっきの肛門攻めの時、凜の中に三発放ってしまってな、もう、すっからかん。空砲のまま決勝に進んだとて、らちがあかねえや……」
「なんと、三発も放ったか」
「凜の肛門の締まりたるや絶品でな、ついつい搾り取られちまったぜ。あで之進、開(ぼぼ)の締まりはどうだった?」
「よかったでござるよ。二発は出した」
「二発かい? もっと出したかと思ったぜ」
「ああ、あとは無我夢中で出してる暇がなかった」
「あははは、そうか、それはいい。決勝で放つ弾(たま)がまだ残っているだろう?」
「ふむ。辛うじて一発あるかどうか……」
「一発ありゃあ十分さ。あで之進、頑張れよ」
「決勝に進むことが出来たのは二倫坊、おぬしの奮戦のおかげでもある。もしも最後も勝てたなら、賞金の一部を差し出すので、その時は受け取ってくれよ」
「取らぬ狸の皮算用とならねえことを祈るぜ」
「ああ!」
「まあ、期待しておくとするか」
二倫坊はニッと笑うと、腰をさすりながら向こうへ歩いていった。
さて、決勝の行われる奥座敷である。
十六畳ほどの部屋で、これまでで一番狭かったが、畳の縁には金糸が使われ、黒松の描かれた襖は重厚で、置かれてある調度も豪華極まりない。百目蝋燭が何本も灯され、忍び寄る夕闇を全く寄せ付けなかった。
艶之進と小夜之丞は全裸で部屋の端に立たされ、彼らのそばには凜と満が待機していた。彼女らは薙刀の稽古着のような衣装に身を包んでいたが、競技者の魔羅が立ちやすいように、胸だけははだけ、凜は形良い乳房を、満は垂乳根を思わす乳房を見せていた。
「凜どの、身体のあんばいはどうじゃ? へたってはおらぬか?」
艶之進が凜の耳元で囁くと、彼女は気丈に笑みを浮かべた。
「先ほど、人参滋養湯を口にしましたゆえ、持ち直しました。艶之進様こそ大丈夫でしょうか……。先刻、あれほど激しくわたくしを……」
「二発、精液を吸い取られたが、なあに、あとひとたびは捻出できよう」
「及ばずながら、精根込めて、さすってさしあげまする」
「うむ。お頼みもうす」
艶之進が丁重に頭を下げると、用人が頃合いと見て進み出てきた。そして若侍に命じて艶之進・小夜之丞の足元から向こうへと黒繻子(くろじゅす)の帯を長々と敷き延べさせた。なるほど黒い布であれば飛んだ精液がよく見えることだろう。帯の準備が終わると用人は改めて一歩進み出た。
「それでは決勝を執り行う。この最終戦は、かねてから申しておるように、精液のよく飛んだ者が勝者となる、簡にして要を得た競技じゃ」