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下屋敷、魔羅の競り合い
【歴史物 官能小説】

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艶之進、唸る肉刀-1

 第三戦の結果の書かれた紙を手にした用人が声を張り上げる。

「ら組の腰元、蘭の逝き果てた回数…………十と一回!」

 力蔵が半身を起こし、「ま、そんなものかな」と言って顎の下を掻いた。用人が発表を続ける。

「り組の腰元、凜の逝き果てた回数…………十と三回!」

 艶之進はぐったりした凜を抱いたまま片手をグッと握りしめた。

「なんだとう!?」

 力蔵が跳ね起きる。

「こっちが十一で、あっちが十三だとう? 何かの間違いじゃねえのか?」

 用人に向かってズンズン歩み寄り、紙をひったくってまじまじと覗き込んだ。

「ら組は……『正』の字が二つ、その下に『一』の字……」

「それが力蔵、おぬしらの戦績じゃ。十一を示しておる。それに対し、り組は『正』が二つに『下』に似た字がひとつ書いてあるであろう。十三じゃ」

 用人の説明に、力蔵はまだ納得できず、見届け人の数え間違いではないかとごね始めた。すると、老女の嵯峨野が甲高く諫(いさ)めた。

「黙りおろう。きさまは本来、失格であるのに、今さら何をごたごたぬかすか!」

「失格だとう?」

「そうじゃ。きさまは三戦目の途中、交接していた小夜之丞を無理矢理どかしたであろう。二人力を合わせて戦うというのが第三戦の趣旨であるのに、仲間を排斥するとは何事じゃ」

「あれは、なんだ……、やさ男があんまりちんたらやってやがるんで歯がゆくてよう……」

「かといってあの行為は失格に値する。……しかし、試合の最後まで戦わせたのは、奥様のご配慮じゃ。せっかくの力戦に水を差すのもなんじゃ、と仰せになられてな……」

「…………………………」

 力蔵は苦虫を噛みつぶしたような顔をしていたが、「このままで済むと思うなよ!」と捨てぜりふを吐き、昇竜の入れ墨の入った背中を盛り上げ、ズンズン歩いて幔幕を跳ね上げ、出て行った。

「あ、あらためて申し渡す」用人が場の空気を変えようと声を高めた。「決勝へ進む者、坂本艶之進、そして、二倫坊!」

 すると、二倫坊が腰を曲げながら弱々しく言った。

「すまねえが、おれはここで棄権するぜ。腰を痛めちまって、これ以上戦えねえ」

「棄権じゃと?」

 用人は綾乃に視線を移した。そして、うなずきを得たので言葉を継いだ 。

「決勝戦は交接を伴わぬ。腰元の手淫によりて精液を勢いよく飛ばし、その距離を競うことが眼目(がんもく)じゃ。それだと二倫坊、おぬしでも参加出来よう」

「精液を飛ばす? ……そんな単純なことが、決勝の内容なのかい?」

 肩すかしをくったという表情の二倫坊。艶之進も思わず言った。

「五十両もの大金がかかっておりまする。最後は、もっと過酷な争いが待っているものとばかり思っておりましたぞ」

 すると、綾乃が立ち上がり、一歩進み出た。

「何を言う。ここは魔羅くらべの場じゃぞ。魔羅の本分とは何じゃ? 小便をすることなどではないぞ。……魔羅の本分とは、精の汁をぶっ放すことであろう」

「奥様、ぶっ放すなどと……」

 老女が顔をしかめたが、綾乃は言葉を続ける。

「精の汁を、どれだけ勢いよく放てるか……。威勢よければよいほど、交情の際、こつぼ(子宮)へ強くぶち当たり、子宝を得る確証が上がるというもの。それが魔羅の価値のおおもとじゃ。それゆえ」綾乃は声を高めた。「何の衒(てら)いもない、素朴な射精の勢い勝負こそ、決勝にふさわしいのじゃ!」

 二倫坊は腰をさすりながら話を聞いていたが、溜息をつくとこう言った。

「精液を飛ばすだけなら確かに腰痛は関係ないかもしれねえがな、勢いよくぶっ放す時には、必ずのけぞるだろう? 今のおれは、腰を伸ばすだけで痛いんだよ。……残念だが、やっぱり棄権させてもらうぜ」

「二倫坊、あとひとつ勝てば五十両なのだぞ」

 艶之進の言葉に二倫坊は苦々しく笑って答えた。

「そりゃあ五十両は喉から手が出るほどほしい。だがなあ……」まっすぐ立とうとして、すぐに顔をしかめた。「この激痛だ。とてもじゃねえがこれ以上は……」

「そうすると、拙者は不戦勝ということになるのか?」
 
 艶之進は後味の悪そうな顔をした。
 すると、綾乃が笑みを含んだ声で言った。

「不戦勝などというつまらぬことはありえぬ。決勝はきちんと行う。二倫坊が身を引くというのであれば、決勝へは小夜之丞に出てもらう」

 指名された本人はキョトンとした顔を綾乃に向けていたが、彼女は近づきながら言った。

「そのほう、先ほどは力蔵の無体なふるまいをこうむり、戦線離脱を余儀なくされた。口惜しかったであろう。あのまま交接を続けておれば、ら組の勝利となったやもしれぬからのう……。そこで、やり直しの機会を与えるというわけじゃ。……これ、小夜之丞」綾乃は艶然たる流し目を送った。「おまえは決勝で見事勝ちを得、五十両を得た後、わらわと同衾したくはないかえ?」

 小夜之丞の表情は戸惑いから承服へと切り替わった。そして、うやうやしく返事をする。

「奥様、ありがとうございます。最終戦を勝ち抜き大枚を得ることは、かねてからの目途ではありましたが、奥様と閨(ねや)を共にする機会を得ましたならば、愚息を奮い立たせ、腎張り(好色なこと)ぶりを披露いたしたくぞんじます」

「ふむ。事は決まった。それでは……」綾乃は用人に目配せをした。「決勝の子細を申し渡せ」

 言われて用人は艶之進と小夜之丞を呼び寄せた。

「決勝では、腰元に魔羅をしごいてもらう。そして勢いよく精液を放ち、その飛んだ距離の差で優劣をつける。至極、単純な競い合いじゃ。単純ではあるが、本日これまで吐精を繰り返してきた者にとっては、酷な競技かもしれぬのう……」


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