僕と彼女の理由-3
僕は悪いやつだ。
彼女はきっと泣いている。
彼女の手元を覗き込むと、学食で買ったであろう甘いパンやら豆パンやらしょっぱいパンやら、いろいろたくさんビニール袋に詰めこまれている。
彼女はそのひとつを手に取ってむさぼっている。
これは、あれだ。
女の子が主に落ち込んだときとかにする・・・。
「やけ食い?」
思わず口にすると、彼女はやっとここに来て初めてこっちを向いた。
うるんで赤くなった目で、悲しそうな顔で見つめられた。
「・・・ごめんなさい」
中腰のまま謝る。二年間も好きだったんだもんな。
僕が彼女の次によく知っている。
彼女はまた前を向いてパンを口にする。
「先輩、好きな人がいるんだって」
彼女が震える声で話だす。
「誰だと思う?」
ぽろぽろパン屑が落ちる。
きっと見えないけど、涙もそれと同じくらい落ちてるだろう。
「別れた彼女さん」
一層声が震える。
「先輩ふられたのに諦められないんだって」
僕は後ろで黙って聞いている。
「どうしてわたしじゃ、ダメなのかな。わたしは先輩のことこんなに好きなのに」
ああ、それは
「先輩がわたしのこと好きになってくれればうまくいくのに」
僕と同じ。
「先輩も苦しい思いしなくて済むのに」
そんなの
「どうしてなんだろうね?」
こっちが聞きたいよ。
「あのさあ」
僕自身意外なほど大きな声が出た。
彼女もびっくりしたようで、ゆっくりこっちを向く。
口の周りはパン屑だらけでほっぺたには涙で髪が張り付いている。
なんだか少しおもしろい顔かもしれないと思った。ふきんしんだけれど。
「僕のことを好きになる気はない?」
彼女がぽかんと口を開く。
あ、言ってしまった。
手から甘いパンが落っこちた。
あ、もったいない。
「・・・それってどーいう意味?」
彼女が小さい声で尋ねる。「ユキのことが好きってこと。僕はユキのことがずっと好きだったから」
ついに言ってしまった。
「ずっと?」
やっぱり小さな声。
「うん」
彼女がぽろぽろまた泣き出した。
「・・・ばかじゃない・・・そんなの・・・なんで・・・」
彼女を泣かせてしまった。
「言ってくれなきゃわかんないよ・・・」
そういうところが好きなんだ。
とりあえず今はそばにいよう。今だけでも。
泣き終わるのと、食べ終わるのを待って家まで送りますよ。