小松原の願望-1
『真紀子君、タクシーを呼んでくれ。今から、君の買い物をしに行くから。』
真紀子は、訳が分からず、タクシーを呼んだ。
社用車を使える立場なのに、タクシーを呼ぶということは私用なのだ。
小松原は、真紀子を連れて、タクシーに乗り、銀座へ向かった。
最初に入った店で、スーツを3着、真紀子のために購入した。
シックな色の、膝丈のタイトスカートで、見るからに品が良いスーツである。
白いブラウスを7枚、、パンプスなどの靴を5足、を続けて購入。
そして次の店では、小松原はタクシーから降りない。
財布から1万円札を数枚出して、
『これで下着を買ってきなさい。上下セットのもので、派手ではない色のものを、買えるだけ買ってきなさい。』
と言う。
大量の買い物を済ませ、一度、会社に戻る。
『今後、ブラウスの下は余分なインナーはつけずに、ブラジャーだけにして欲しい。』
『でも、それだと、ブラが透けてしまうと思うのですが、、、』
『ジャケットを脱がなければいいだろ。』
『はい。』
『ただ、私の前だけでは、ジャケットを脱いで、ブラウスからブラジャーが透ける状態でいて欲しい。』
真紀子は、小松原の言う意味が分からなかったが、たぶん、そういう趣味なんだろうと思っていた。
小松原は、また財布から1万円札を数枚出して、真紀子に渡す。
『今日、帰りに、化粧品でも買って帰りなさい。女性は、化粧品代もバカにならないだろう。』
真紀子は、こういう気遣いは、正直、ありがたかった。
翌日から、真紀子は、いつ常務から求められるか、ちょっとビクビクしていた。
日々、帰宅したらむだ毛のチェックなどを、念入りにするようになった。
しかし、常務は何も言ってこない。
もちろん、体をベタベタ触ってきたり、馴れ馴れしくするようなこともない。
普段通り、仕事上の上司と部下、という関係は何も崩れていない。
ただ、常務に言われた通り、デスクワークの時は、ジャケットやベストを脱いで、白いブラウスからブラジャーが透けるような格好で、仕事をした。
来客があったり、役員室の外に出るときは、上着を羽織るので、特に問題はない。
傍らで見ていても、常務の仕事ぶりは的確で誠実である。
『男は、仕事ぶりを見ていれば、その人の人となるが分かる。』
これは、亡くなった父がよく言っていた言葉である。