アイドリング2ndシーズン-1
チャプター1
「これ、今月分のバイト代ね」
そう言って裸電球みたいな頭の男性店長が、分厚い茶封筒を手渡してくれた。若い頃にはふさふさだったらしいが、今ではその面影すらない。
「ありがとうございます」
友里は明るく元気な声で受け取り、その場で中身を確認する。折り目のない壱万円札と千円札がたくさん詰まっていて、厚みもある。
「こんなに、いいんですか?」
「友里ちゃんにはいつも助けてもらっているからね。僕からの臨時ボーナス」
「店長、あたし、泣きそう……」
とか言いつつ友里の目にはすでに飴玉みたいな涙が浮かんでいた。鼻水は出ていないが、ぐすんと鼻をすすった。
店長、またバイトの女の子を泣かしてるよ、というひそひそ話が狭苦しい事務所内で交わされている。
「参ったなあ。友里ちゃんに泣かれると僕が誤解されるんだもんなあ」
ほとほと困り果てた店長は、エプロンのポケットから取り出したハンカチでひたいの汗を拭うと、ほかのスタッフたちを追い出して自分も事務所から退散した。
一方の友里はといえば、持て余したバイト代の遣い道についてあれこれ妄想をふくらませ、たまにはプチ贅沢でもしようかなと胸を躍らせていた。涙はもうすっかり乾いている。
そういえば、いつかのカーディーラーでお世話になった西山さんはどうしているのだろう。友里は今でも当時のハチャメチャな出来事を鮮明に思い出せる。
車の免許を取得した友里は、西山という営業スタッフの薦めで新車の試乗に出掛けたのだが、行く先々に待ち受ける大人のサプライズにまんまとハートを奪われ、最後にはラブホテルの一室で西山と共に濃密な夜を過ごしたのだった。
友里が試乗したのは車ではなく、西山の頼もしい肉体そのものだったと言えなくもない。
納車の時にも彼は友里に対してとくべつやさしくしてくれたし、オイル交換や保険の更新の際にも同様の扱いで手厚くもてなしてくれた。
車の乗り心地以上に、西山と二人で温め合ったベッドの寝心地はまるでシルクの海を泳いでいるようで、友里の記憶に深く刻まれ、今でも週に一度は思い出してふにゃふにゃしている。
「友里ちゃん、レジお願いね」
「はい、すぐ行きます」
小さな町の小さなレンタルショップの店内に、野球部の女子マネージャーのような友里の明るい声が高く響いた。