ある木曜日-4
狭い廊下を抜け楽屋に戻ると支配人は出ていった。
「本当にできるのかしら…」
楽屋には小道具や衣装があり、その中に真っ赤なバタフライマスクを見つけ、手に取った。
マスクを見ていると惹かれるように付けてみて鏡を見た。
鏡には映画の社交パーティに出てくる淑女のように派手なマスク姿の淑女がいる。
「そうよ…ここにいるのは私じゃないのよ。踊り子のモモなの。迷わず踊るのよ」
言い聞かせるように呟くといつの間にか不安も来てたような気がする。
支配人が置いていった真っ赤に天狗の面を取ってみるとドキドキしてくる…
衣装ケースに近付くと色んなものがかかっている…
私はスーツとブラウス、下着を脱ぐとケースからレースのピンクのショーツをとってはき、その後に同じ色のスリップ、その上から真っ白な浴衣を羽織り、前が肌蹴るように緩めに帯を絞めた。
その格好でテーブルの周りを歩きながら小夜子姐さんの仕草を思い出す。
腰を大きめに振るとお尻が揺れるのがわかる。
座り込んだ後に脚を上げてみると少し張ってつるかも知れないけど、脚は大きく開きそうだった。
立ち上がった後、学生の頃のチアリーダーの時を思い出して脚を振り上げてみると、昔にようにはいかないけどそれなりの高さに届いた。
「これなら大丈夫かも。よし!」
言いながら私は化粧箱から道具を取り出していつもよりも濃い目のお化粧をし直し、特にマスクから見える目には念入りに施した。
「おやぁ!?今日は随分若い子だね?」
声の方を見ると小夜子姐さんが戻ってきていた。
「お疲れ様です。あの…はじめまして。小夜子姐さん。モモと申します。先程は舞台を見て勉強させて頂きました。」
緊張しながら学生時代の先輩に接するように挨拶すると優しそうに笑みを浮かべる小夜子姐さんは
「さっき戻って来る途中で支配人から聞いたよ。それにしてもあんたもヒモのせいで苦労するわね」
「エッ!?ヒモですか?」
「まぁこういう世界だよ。深くは詮索しないけどいつも苦労するのは女だよ。終わったらきっちりと返してやんなよ」
「えぇ、そうですね。後でじっくりお灸を据えます」
「フフフフフ、その息だよ」
そんな会話をしていると支配人は、腕時計見ながら入ってきて
「じゃあモモ嬢、そろそろ行ってみようか」
「は…はい…。それでは小夜子姐さん、行ってまいります」
「なーに、大丈夫、ヒモの前で服脱ぐ時の様に、気楽に行きな」
「はい、お姐さんに勉強させて貰ったようにやってみます。」
「こんな事、そうあるもんじゃないんだからあんたが楽しんだら良いだよ。気楽に行きな」
バタフライマスクをつけながらお姐さんに挨拶してピンクの羽扇子を手に持ち私は楽屋を出た。
「じゃあ、行こうか」
「ハイ!」
もう迷いはなかった。でもうまくできるかどうかはわからない…でも一生懸命やってみよう…それだけを思って私は舞台袖に立った。
「さあ、小夜子嬢の次に登場するのは、本物の素人さんでモモ嬢です!素人ならではの、初々しくも艶めかしいショーにご注目下さい!!」
支配人はそでに置いてあったマイクを握り、場内にアナウンスを始めました。
私は大きく息を吸い込むと、ゆっくり舞台に歩いて行った。
天井から吊るされたミラーボールがキラキラ輝き、眩しいくらい私を照らしているのがわかる。
そして、曲が鳴り始めました。
ちょっとアップテンポでエロチックなBGMが流れるのは盛り上げようとしている支配人の気遣いがわかる。
観客の手拍子が聞こえ、観客席を見てみれば、お客さんの数は客席いっぱいなっていた。
私はもう一回大きく息を吸ってから満員の客席を艶かしく見渡した後、深々と頭を下げ、一例した。