奪還-17
コーヒーが運ばれると、もはや不穏な空気はなく、顔なじみの接客のような雰囲気になっていた。
「しかしこいつらは汚ねー真似して私服を肥やしてくれたよな。」
吐き捨てるように言った八坂。
「私が許せないのは、こいつらが悪用した麻薬や現金の大半は田口徹の事件がらみで押収したもの。私がどれだけ奴を憎んでるのか知ってんだか知らないんだか分かんないけど、それに手をつけた事が許せないのよ。勿論人道的に外れた行為は許せないけど、それなら受けるべき罰を受ければいいと思ってる。でも私、田口徹がらみになると正常な判断が出来なくなっちゃうから、もしここにいる皆んなが黙っててくれるなら拳銃で撃ち殺したい気分だわ。」
過激な発言に組員達も驚く。
「だははは!いーねー、上原若菜!素直な気持ち。人間らしくて非常にいい。」
「まー、立場上、奥歯に物が挟まったような言い回ししなきゃならない時もあるけど、思った事をそのまま言った方がスッキリするわよね。」
「確かにな。で、どうする?こいつらの身柄を渡して欲しいのか?」
「当然。あなたに預けたら最終的に海の底でしょ?でもそれじゃダメなのよ。私自信、罪を犯した事に対して刑務所の中でたっぷりと反省したわ。時間をかけてね。そのお陰で今の私があると思ってる。死んでしまえば反省なんかしないし、出来ない。こいつらに反省させないとムカつかない?」
「…まぁ、今まで何人か海の底に沈めて来たが、確かに反省もせずにあの世に行った事が悔しかったりする事はあるかもな。ナメられたままって事だからな。あんたが言う言葉も一理ある。あとは、憎きこいつらを預けるべき人間かって事だ、上原若菜が。」
「預けるべきに足りる人間でしょ?」
「ハハハ、凄い自信だな。」
「要は信じられるか、信じられないか。でもさぁ、組長さん、もう私の事、信用してるでしょ?」
ニヤッと笑った若菜にニヤッと笑い返す。
「ハハハ!日本の警察も安泰だな!まぁいつまでも警視総監やれよ!」
踏ん反り返って笑い飛ばした八坂。
「会見を開いて、身内の恥は包み隠さず公表するわ。それ見て気に食わないようなら電話ちょうだい。」
「ああ、分かったよ。好きにしろ。」
「ありがとう。お礼に今まで何人か海の底に沈めて来たって話は聞かなかった事にしてあげるわ♪」
そう言ってウィンクした若菜に八坂はマジ照れしてしまった。
若菜が渡嘉敷に電話をすると、集結した刑事らと共に、清水と沼田に手錠をかけ連行した。
渡嘉敷の姿を見た八坂。
「ごぶさただな、渡嘉敷の旦那!」
「ああ。」
「いいボスに巡り合えて良かったな。」
八坂の言葉に渡嘉敷は控えめな笑みを浮かべたのであった。そしてすぐに事務所を後にした。
「さて、かったるいけど、明日の会見の準備しよっかなー!」
背伸びをする若菜。
「楽しみにしてるぜ?」
その言葉に返した若菜の一言は、八坂を始め組員らの心をギュッと掴んだ。
「何を?パンチラ?♪ンフッ」