アナルヴァージン喪失 (1)-2
節度といえば、素人掲示板のFの投稿にしてもそう。彼のハメ撮り動画は一見非常識極まりない放埒さに溢れているが、その実、衣服や所持品など身バレに繋がる一切の要素は注意深く排除されている。
たとえば、巨大掲示板の「美人すぎる広報」スレッドに、素人掲示板の「人妻ゆき」のスレッドのURLが貼られたらどうなるだろうと考えてみる。物好きなユーザーが「この二人なんか似てね?」などといってそういう行動に出るのは、ありそうな話である。
年齢はドンピシャで背格好も髪の長さも同じ。名前も同じ「ゆき」で、清楚な雰囲気も共通している。ホテルも特定可能とすれば、「美人すぎる広報」の都内勤務というプロフィールとも合致する。
しかし、そこまでである。顔にはモザイクがかけられていて声も変換されている。名前にはピー音が入れられており、「ゆき」が本名かどうかも明かされていない。結婚指輪にも目立った特徴はないし、お腹のほくろはもちろん「美人広報」画像では確認できない。
極めつけは、鼻にかかった甘ったるい喋り方である。女性目線で聞くと反吐が出るような男に媚びたあざとい口調は、ゆきを知る人であればあるほど同定は難しいと思われ、逆に「明らかに別人物」だと判定を下す材料にすらなりうるだろう。
つまるところ「ある年に生まれた首都圏在住の美人」という以上の共通点はなく、似ていると言われれば似ているが違うと言われればそれを覆すだけの材料はないというのが、再会後にFが投稿した動画や画像である。
その意味では、二人が付き合っていた当時の画像のほうが、バッグやケータイなどその気になれば特定できていたであろう要素も散見されて危うかった。ただ当時のアングラサイトにその手の無用な詮索をする者はいなかったし、今となってはすでに確認のしようがない。
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ゆきは予定どおり帰宅した。
皆で食事をし一家団欒のひとときを笑顔で過ごす。私が洗い物をしている横で、子どもたちの勉強を見る。どこからどうみても、仕事も家庭もきっちりこなす美人妻。
唯一Fとデートしてきた日は夫婦生活だけがままならない。一時間で終わるZとの逢瀬とはやはり勝手が違うようで、今日もデート報告もそこそこに途中で寝てしまった。先日説教されたこともあり、せっかくスローセックスに徹していたのに気がつくと私の上ですやすや寝息を立てていた。
私は妻の下からそっと抜け出し、蒸れた股間に顔を埋めて匂いを嗅ぐ。Fの生ペニスが何度も出入りしたその穴に鼻先を押し付け、生い茂る陰毛とどす黒い花びらの湿り気を感じながら自慰をする。妻は私の行為にいったんは気づいて起きたが、疲労には勝てずまたすぐ寝てしまった。
私はゆきの肛門の匂いを嗅ぎ、舌先で優しく突付いて舐め上げる。溢れて垂れ落ちてくる愛液の酸味と、アナルの皺の繊細な舌触りを楽しみながら、射精して果てた。
――妻の肛門貞操は依然守られている。
今朝ゆきが出社したあと確認したのだが、「アナルセックスをする覚悟ができたら着てきてほしい」と手渡された例のランジェリーは、新品のタグがついたままクローゼットに眠っていた。
あらためて見ると、本当に淫らすぎるデザインである。
ブラジャーの布地は網目の粗いレース地で、乳首の突起も黒ずみもカバーできない上に、服の上に浮き出て見えるような代物である。Tバックのショーツも後ろは限りなく細く、クロッチ部分にだけ、申し訳程度にやはり透け透けのレース生地があしらわれている。サイドの可愛らしいリボンを引っ張ってみたら、結び目がはらりと解けた。きちんと可愛く結び直すのが大変で若干焦ってしまった。タイツもガーターベルトも、女性の身体を保護するためというようりは男を楽しませるためだけのデザインである。
ゆきがこれを身に着けてFとデートする日はくるのだろうか。そもそもこんな乳首が浮いてしまう下着でまさか仕事をするわけにはいかないので、着用するとしたら、デート前にわざわざどこかで着替えることになる。そんな面倒なことしてまで、ゆきはアナルヴァージンをFに捧げたいと思うのだろうか。
その答えは意外なところで判明した。