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いし
【ホラー 官能小説】

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いし-1

一年半付き合っていた彼女にふられた。貧乏学生の俺が、あんなに美人で、あんなにいい女と付き合うことは二度とないだろう。
5月の雨は、そんな俺を嘲笑っているのか、涙を隠そうとしてくれているのか、とめどなく落ちてくる。
もう何もかも終わりなんだ。髪が濡れようが、服が濡れようが関係ない。
「あ〜……うぁーっ……!」
言葉にならない言葉を発しながらフラフラとさまよう。
気がつけばまるで通ったことのない道を歩いていた。ここはどこか、そんなことはどうだっていい。そうさ、終わったんだ。何もかも!
―――と、右横に人の気配を感じてハッとした。右を向くと、そこには小さな道があり、奥は明かりが届かず、見ることは出来ない。
何だかやたら気になる。悪魔か、お化けかそんなんだったら好都合。息の根を止めて貰おう。女だったら犯せばいいし、ヤクザなら喧嘩でも挑んでみよう……
そんなことを想像しながら、俺は吸い込まれるようにその小道に入っていった。
ジャリ……砂の音が壁に反芻する。
「おい、誰かいるのか?」
暗闇に目を凝らしてみる。やがて雨に混じって声が聴こえてきた。
「ヒッ…ウッ…」
そこにいたのは、雨に濡れ泣きじゃくっている女の子だった。年の頃は11、12だろうか。いや、もう少し小さいかもしれない。
「おまえ、こんな雨の中何してんだ?親はどした?」
少女はかぶりを振った。喋るどころでは無いらしい。
いくら全てに絶望していたとはいえ、こんなところに少女を置いておくわけにもいかない。
「おい、こんなとこにいたら風邪ひくぞ。来い。」
俺は少女を引っ張って歩き出す。
「ウッ…うぅ…」
「たく、どこなんだよ、ここは……て、あれ?」
小道を出た先はよく知っている道だった。間違うはずもない。この一年半彼女に会うために通った道だ。
「おかしいな……知らない道だと思ったんだが……」
きっと気が動転していて気づかなかったんだろう。小道だってきっと普段は何気なく通り過ぎていたんだ。
そんなことを考えがら、少女の手をひいて歩く。傘などないからお互いずぶ濡れだ。
彼女は白のワンピース。街灯に照らされて見る少女の顔は彫刻のように美しく整っている。特に切れ長の目と高い鼻は日本人離れしていた。濡れたワンピースが体に張り付いて美しい成熟の過程にある体線も露わになっている。
ゴクリ……
暗くてよくわからなかったが、かなりの美少女だ。
雨に濡れて可哀相な女の子、の印象が、そそる獲物に見えてくる。これは、神様が俺にくれたお慰みかもしれない。
もう家はすぐそこだ。まずは様子を見てみるか……。
「寒いだろ?家に入れてやるから、ちょっと風呂に入れよ。あ、その前に名前は?」
「百合子……」
「そっか、俺は小西。小西英介だ。怪しいもんじゃないからな。よろしく。」
「よろしく、英介さん……。」
不思議な自己紹介を交わしながら、アパートの階段を上がる。いつもに比べて階段の一段一段がやけにきしむ気がする。ボロアパートめ。それとも俺の感覚が尖ってんのか。
ドアノブを回し、部屋に入る。
「あ〜!濡れた濡れた濡れた!ほら、このタオル使えよ。」「ありがとう……」
俺は百合子と名乗る少女にタオルを投げわたし、自分もタオルで体をふいた。
その間に、浴槽にお湯を張りつつ、お茶を淹れる。
「飲めよ。温まるぞ?」
「ありがとう……」
しかし、彼女はそう微笑んだだけでお茶には口をつけなかった。


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