想[2]-2
その時、私たちの後ろから自転車の音が聞こえた。どんどん近づいてくる。私は何気なく首だけ道路側へ向けた。シャーッと回る自転車の前輪が見えてくる。
「あっ」
つい声を上げてしまった。「ん?」
暁寿に「何でもない」と言うと私は反対側を向き直した。
自転車に乗っていたのは…名屋 鋼吾君…。二つの自転車が並んだ時、名屋君はふとこちらを見て、驚いたような表情をした。その表情に私が驚いて声を上げた。そして、名屋君はすぐに目を逸らし何事もなかったように私たちを越していった。
何で…そんな顔するの…?
「着いたぞ」
私の家の前で暁寿は自転車を止めた。私は荷台から下りて暁寿にお礼を言う。
「また明日なっ」
「うん!」
「主里…」
暁寿は私の手を掴むとゆっくり自分の方へ引き寄せた。首を傾け目を瞑り私の唇に近づいてくる。私もそれに応じて、同じように目を閉じる。すると、唇に柔らかな物があたり、暁寿がいつも付けている私があげた香水の香りが強くなった。甘く優しい空間が私たちを包み込む。お互いの唇が離れた。私は少し恥ずかしくて俯き、目を開ける。顔を上げると、暁寿の優しい瞳が見つめていた。
「じゃあな」
暁寿は私の髪の毛を撫で、自転車を漕いだ。
私は遠くなる暁寿の後ろ姿を見送ってから、家のドアを開けた。
一瞬、名屋君のあの時の顔が頭を過った。
あんなに驚くなんて…。ううん、名屋君は雲の上の人で皆のアイドルなんだってば!!全部たまたまだよ…たまたま。私が好きなのは暁寿だけ!!
自分に言い聞かせて、私は家の中に入った。