娘と母と そして 父と夫-5
「じゃあ、ここからは大人の時間。子どもたちは、将来のためにしっかり見学よ。」
「なんだ、鑑賞の時間もあるのかい?」
潤一が少し不服そうに言った。
「そ。鑑賞の時間。そして大人たちのやることには、一切干渉しない。」
「なるほどね。」
「え〜?かんしょう、するの?しないの?」
真奈美は明らかに混乱し、困ったような顔で聞いた。
「あ、そっか。真奈美ちゃんにはちょっと高度だったかな。」
「うん。鑑賞と干渉で、真奈美は勘違いしたのだ。」
「じゃあ、完勝じゃなくって完敗だね。
「うぐぐ……。感傷に浸るしかないか……。」
「すご〜い。真奈美ちゃん、この頃凄いよ、漢字の知識。」
「感じる能力もすごいのだ。」
真奈美の能力。
出来ることと出来ないこと。
得意なことと苦手なこと。
真奈美には脳にできた腫瘍のため、知的な遅れがあると言うが、
それがいったい何なのだろう。
そもそも知的な遅れとは何なのだろうか。
潤一も敏明も美奈子も、
そして一番多くの時間を真奈美と共に過ごしてきた紗理奈はその思いを新たにした。
(人と人とのかかわり、相手に対する思いやりや優しさ、配慮。
果たしてそうしたものを知能指数のように数値化することができるのだろうか。
人間には数値化しきれない、様々な能力がある。
それはおそらく、本来、本能と本能、欲望と欲望のぶつかり合いである、
セックスの能力についても同じだろう。)
紗理奈はそう思っていた。
(いくら知的レベルが高かったとしても、
相手のことも満足させ、自分も満足できるような、
さらには相手も自分も成長できるようなセックスをすることができるというのは、
間違いなく特殊能力なのではないだろうか。
真奈美ちゃんはそういう意味では、ある種の天才なのだろう。)
紗理奈は、敏明と一緒に、
真剣な表情で両親の一挙一動を見つめている真奈美を見て、改めてそう思った。
「さて、そろそろ始めるみたいよ。」
「なんか、試合前の緊張感みたいのが漂ってるけど。」
あちらのベッドの上で4人の男女が固まったようにしているのを見て、
子どもたちは勝手気ままにコメントを始めた。
「ええ。もっと自然に始めればいいのにね。
いろいろと手順に戸惑ったから、今更、改めて、っていうのが、
なかなか難しいんだと思うわ。」
「うふ。お父様もいつもと違ってちょっと緊張してるみたい。」
美奈子は普段はひたすら末っ子である自分に厳しい言葉を浴びせてきた父親の、
あまり見たことがない緊張に強張った顔をある意味、
不思議そうに、そしてある意味面白そうに見つめていた。
「そうでもないわ、美奈子。ほら、ペニスはいつも通りにビンビンよ。」
「そっか。あれがお母さんの中に入るんだね。」
そう言った美奈子の声はいつも以上に硬かった。
「どうしたの、美奈子。改まっちゃって。
美奈子だってお父様のペニス、何度も味わってるじゃない。」
「うん。でもこうやって改めて見ると、
なんか凄いっていうか、ちょっと怖いくらい。」
「うん。真奈美もちょっと怖くなっちゃった。」
それは真奈美も同じだった。
ついさっきまで父親のペニスを握りしめ、時々口に含みながら、
一分でも早く挿入して欲しがっていた真奈美、
そして征爾のペニスに、時には癒され、
時にはそれまでには経験したこともないような強烈な快感を、
常に与えてもらっていた真奈美でさえ、何らかの緊張感からか、
征爾のペニスがとてつもなく大きく硬いものに思えたのだ。
「大丈夫よ。真奈美ちゃんのお母さんは、
さっき、お母様の拳を受け入れたんですもの。
いくら女性とはいえ、握り拳よ。お父様のペニスの比じゃないわ。」
「ねえ、お父さんはどうするのかなあ。」
「そうね。お母様とじゃないかなあ。わたしたちはここにいるわけだから。」
子どもたちの関心は、二組の夫婦が、どういった形で始めるかだった。
夫婦交換するのか、あるいはいきなり乱交という形をとるのか。
2組の夫婦がいて、片方の妻が自分の夫ではない男と絡もうとしている時、
それを邪魔立てする理由は嫉妬だけだ。
しかし、今この2組の夫婦は、その嫉妬という得体のしれない、
底なしに危うい刺激を、
自分たちの封生活の新たなスタートのエッセンスにしようとしているのだ。
ここに第三者の入る余地はないように思えた。
「じゃあ、まずは夫婦同士っていうこと?」
「ああ、それが無難かな。いいんじゃないかなあ。互いの夫婦の愛情確認。」
「ううん。わたしはいきなり、相手を変えてくると思うな。
お互いの嫉妬心を煽るために……。」
「ジェラートだ〜!!」
真奈美が思わず叫んだ。
「ジェラシーだよ、真奈美ちゃん。」
「ねえ。もっと近くに行って見ようよ。」
「真奈美ちゃん。このくらいの距離がいいのよ。
あんまり近いと、それこそ気になっちゃうでしょ。」
「でも、間近で見たいっていう真奈美ちゃんの気持ちもわかるなあ。」
「潤一。あなたは単に、結合部のアップが大好きだからじゃないの?」
「もちろん、それもあるけれど……。って、ビデオは?」
「大丈夫。ちゃんと録画になってるから。」
紗理奈はある意味、
雅和夫婦にとっても、そして自分たちの両親にとっても、
大きな転機となるであろう、この夫婦交換の一部始終を、
ビデオに収めようとしていたのだ。
それはもちろん、自分の両親が後になって鑑賞するためのものでもあるが、
紗理奈が将来、一生を共にする伴侶と出会い、
自分の家族や家庭の在り方について理解を求めようとした時に、
圧倒的な説得力を持ってくれるだろうビデオになるはずだった。