背信行為-2
「何だ、仕事終わらないのか?」
19時、そろそろ帰ろうかと思った手嶋が、まだ書類を開きパソコンを操作している彩香に話しかける。
「先日の女子高生誘拐事件の捜査のまとめが終わらなくて。でもボチボチ切り上げて帰りますのでお先にお帰り下さい。」
「手伝うか??」
「あ、大丈夫です。」
「そうか。無理すんなよ?お先!」
「お疲れ様でした。」
手嶋は右手をヒョイっと上げて帰って行った。
「さて、今日は上原さんが来るのは22時だから、それまでに片山副総監の事、調べなきゃ。」
周りの様子を気にしながらデーターベースにアクセスし片山や長山晋、そして3億円事件絡みの情報をチェックする。
「たかに木田康介は謎ね。たいした経歴もないのに警視総監に就任できたのは何故だろう。」
経歴だけ見れば誰が見て長山晋の方が警視総監に相応しいのは明白だ。しかし何故そんな長山を差し置いて木田康介が総監になれたのかまでは記載されていない。その理由を調べるにもかなり昔の事だ、どう調べるか頭を悩ませた。
「木田康介はノンキャリア組か…。ん?5課上がりなのね。5課か…。麻薬…。上原さんが良く言う事件の繋がりを考えれば麻薬が何か関係してるかもね…。だいたいこーゆー謎がある人ってお金も絡んでるものだから、癒着とかワイロとか、その線もありそう。」
警察内部のダークな部分を突いていくのには気が進まないが、今まで隠され続けてきな闇を消し去る事こそ真の警視庁の未来を作り上げる大事な事だと思い、妙な使命感を持つ彩香であった。
彩香は何でも自分の目で確かめたい積極的な性格だ。いつも仕事をしている警視庁内にある麻薬保管庫をまだ見た事がないなぁと思うと見たくて仕方がなくなった。
「ちょっと行ってみようかな…。」
保管庫はセキュリティが厳重でそれを開ける事は出来ないが、ICカードで保管室のドアを開け中に入り保管庫の前まで行く事は出来る。見たくなったら最後、彩香は我慢出来ずに地下3階にある麻薬保管室に向かう。
エレベーターに乗り地下3階に着いた彩香。廊下を跨ぎ正面のドアにICカードを翳すとロックが解除された。右手に遺留品保管庫が並び、左手に銃などの危険押収物があり、正面に違法薬物保管庫がある。初めて見る保管室を見渡す彩香。この場所で中から麻薬を盗み出し悪事を働く行為が行われてる可能性があると思うと、何となく緊張感に包まれた彩香であった。