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ケイの災難
【コメディ 恋愛小説】

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香織と亜里沙の対立-3

本当に表情が豊かで見てて飽きない子だよ。
「おっかしーなー。おねーちゃんと誰かを間違えるなんて最近はしなくなったのになー。しかも今回は男の人と間違えたなんておねーちゃんには絶対言えないよ…」
女の子は腕を組みながらブツブツと呟きながら反省をしてるようだった。
てか、以前は自分の身内と赤の他人をよく間違ってたんかいっ!?
その様子を見ていた俺に気付いた女の子が体裁を取り戻すようににこやかに笑ったこと思うと、今までの自分の行為を思い出したのか急に恥ずかしそうに手をパタパタさせながら話してきた。
「い、いつもはこんな間違いはしないんですよっ!本当ですよっ!信じてください〜」
涙目で訴えてくる女の子に対し頷いて対応する俺に「本当なんですよ〜」と言わんばかりに上目遣いで睨む仕種が妹の智香に似ていたので俺は思わずその子の頭を撫でてしまった。
「えへへ〜。でも、おにーちゃんって後ろから見るとホント女の子みたいですよね。それどころか、亜里沙おねーちゃんにそっくりです」
ちょっと待て!?亜里沙おねーちゃん!?しかも俺とそっくりって…。
女の子の言葉に俺は急いで自分の記憶の糸を手繰った。
亜里沙っていえば、前の撮影の時に奈津ねぇが俺と間違えて撮影現場に連れてきたケイそっくりな女の子。そして、さっき会った片桐亜里沙と名乗った着物美人。
そんな事を思い出しながら俺は目の前にいる小さな女の子の顔をマジマジと見入ってしまっていた。
「ん?どーしたの?おにーちゃん」
無言のまま見つめる圭介を不思議そうに首を傾げて見上げている女の子に声をかけられて圭介は我に返った。
「な、何でもないんだっ」
「ふーん。おにーちゃん、私の事じっーと見てたから麻理絵に惚れちゃったのかと思ったよ」
慌てる圭介を見ながら女の子は悪戯っぽい仕種でケラケラと笑い出した。
ったく、いきなりなんて事を言い出すんだこの子は。
圭介が困った様な微妙な表情をしてると女の子は「あっ、いけない!急ぎの用事があるんだった」と言いながら圭介に抱きついた事を平謝りすると前を見ずに車道に飛び出した。
その直後、圭介の視界に入ってきたのは自分のところから走り去った女の子に向かってトラックが走ってくる光景だった。
「あぶないっ!!」
圭介は大声で叫ぶと同時に女の子に向かってダッシュしていた。
その時の圭介は何も考えてなかった。今から走って行っても間に合わないんじゃないかとか、下手したら自分も巻き込まれるとかの思考はなかった。ただ、女の子を助けたいという思いだけで身体が勝手に動いていたのだ。
女の子はトラックに気付いたが目の前の恐怖で身体が硬直してしまっている。トラックは急ブレーキを掛けタイヤのスキール音が一帯に響く。圭介は女の子に跳びつき抱きかかえた瞬間、視界の隅にトラックの姿が見えた。
ダメかっ!?
圭介はそう思いつつ目を瞑り女の子をギュッと抱きしめた。だが、最悪のケースは逃れたらしく圭介達はそのまま反対車線に倒れこんだ。
しかし、倒れた際に打ち所が悪かったのか、周りの騒ぎと右足に痛みを覚えつつも圭介の意識は遠のいていったのだった。

………………………

その後、圭介は救急車にて朱鷺塚総合病院に搬送され入院という事になった。
気になる診察結果は脳震盪と右足の骨折といったものだった。
俺が運ばれた病院の個室に最初に来たのは母さんと智香だった。
母さんは病室に入るなり慌てた様子で「大丈夫なの?」と何度も繰り返し聞いてきたが、俺の意識が以外と普通で返す返事もいつも通りだったのですぐに落ち着いてくれたのだ。
しかし、智香の方は俺の顔を見るまで気が気じゃなかったらしく、俺の顔を見るなり泣き出してしまった。
そんな智香を必死で慰める俺を見ていた母さんはほのぼのとした笑顔で「やっぱり圭介くんはお兄ちゃんよねぇ」などとズレた事を言って花瓶に花を生けていた。
それからしばらくして泣きじゃくってた智香が落ち着くと、今度は延々と説教を始めてのだった。
そんな感じで入院一日目が過ぎ、翌日の見舞いには見慣れた人と見慣れぬ人、そして来て欲しくない人が訪れたのだ。


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