俺の彼女の黒い傘-1
俺が小夜と出会ったのは、6月25日。雨が降っていた。
俺は、いつもの習慣通りに海岸への散歩道までの道程を、青い傘をさして歩いていた。
「ん?誰だ?」
よく見ると、街の雑踏のなかに一人だけ膝を抱えて座り込んでいる女が居た。
「ったく…。こんな雨の日になにが起きたんだっつーの。」
愚痴をこぼしながらも彼女に歩み寄る。俺、恭一は結構…というか、かなりお人よしなのである。
「そんな所で座ってたら風邪ひくぞ?」
声をかけると同時に、自分の持ってる青い傘で雨を遮ってやる。
彼女は驚いたような顔で俺を見つめている。
透き通るような白い肌。整った鼻筋。大きめの目に、さらさらのロングヘア。
俺は、出来るだけ怖がられないように精一杯の笑顔を作って優しく語りかけた。
「まぁ、こんな所じゃなんだし、俺ん家来いよ。コーヒー出すし、シャワー貸すぞ?」
優しく言ったことなのか否か、彼女はホッとしたような顔で
「…わかった…。」
と言い、ついて来てくれた。
ジャー………
彼女がシャワーに入っている時、俺はコーヒーを煎れていた。
「よし、こんなとこかな。」
ちょうど出来上がった頃、彼女が風呂から出て来た。
「ありがと…。」
まだ心を許してないのか、若干遠慮気味である。
「温まってよかったよ。」
そして、疑問に思っていたコトを聞いてみた。
「で、何があったのさ?話せたらでいいから話してくれないかな?」
彼女は目に涙を貯め、思いのままを俺に話してくれた。
…………酷い。これが俺の1番最初の感想。
お人よし全開の俺にとっては、その元彼を完膚無きまでに吹っ飛ばしたかった。それと同時に、俺でよければ、彼女の傷を癒してあげたい−−そう思い始めた。
「ほぉ…酷いな。苦しかったんだろ?泣いていいよ?」
気がつけば俺はそんな言葉を彼女に投げ掛けていた。
「ッッ…!」
「うぉー。よしよし。」
「何時でも家に来ていいからね?話なら聞いてあげるからさ。」
「ありがと…。」
「あ。外雨降ってるからさ、ホレ、傘。」
「なんかゴメンね」
彼女は申し訳なさそうに言う。その顔に俺はまた胸キュンしてしまう。
「いいのいいの♪気ぃ付けて帰れよ!」
「またね。」
バタン。
彼女が出ていった。
「あ〜、惚れちまったよ…。」
言葉通り、俺は彼女…小夜という名前らしいが、その小夜に惚れてしまった。
心が、彼女を求めている。
「また来てくれるかな〜。つか、傘貸しちゃったから来てくれないと困るんだけど。」
ははは…と自嘲気味に笑い、寝床についた。