お節介。-6
そして若菜は視線を落とし、過去を見つめるかのような遠い眼差しを見せる。
「でもね、本当はいけないんだろうけど、私ね、田口徹を殺した事、全く後悔してないの。」
「え…?」
「それどころか、もし殺していなかったら絶対後悔してたとさえ思うの。私は先輩を殺めた…、酷い仕打ちをして殺め田口徹を絶対に許す事が出来ない。今でも。いざ殺しても私の憎しみは未だに消えない。先輩が命を落とした瞬間、今でも夢に出てくる。あの時感じた海よりも深い悲しみ…、そしてその後には炎よりも熱い憎しみが私を包み込んだ。あんな奴を野放しにしてはいけない、生かしておいてはいけない…、私の手で奴を地獄に突き落としてやる…、その一心で私は辞めようと思っていた刑事を続ける事にしたのよ。だから私は田口徹を殺す為に再び刑事になったの。決して壁を乗り越えたとか、そんな美談じゃない。田口徹を殺す為に銃を扱える刑事でいる必要があったの。すっかり私が立ち直ったと思ってた石山さんや他の人達には悪いなって思ってた。刑事として再起したフリをしながら田口を殺す事ばかりを考えてたの、あの頃。もし今まだ田口徹が生きていたならば、私は未だに田口徹を殺す為に刑事を続けてるど思う。人が言うように美談じゃない。私は初めから最後まで田口を殺す事しか考えてなかったからね。」
華英は言葉が出なかった。田口に対する怒りが未だに強すぎて怖かった。若菜の視線に触れたら体を切り裂かれてしまいそうな恐怖を感じていた。
「だから華英ちゃんの気持ちは物凄く分かる。私も田口徹を殺す事が出来るのなら、レイプされても構わない覚悟でいたから。でもね、一つだけ後悔してもしきれない事があるの。それは両親を殺人者の親にしてしまった事。特に生きていたお母さんには誹謗中傷の電話とかたくさんあったって聞いたの。お母さん、何も悪くないのに私のせいで辛い思いした事だろうね、きっと。言い返すと更に誹謗中傷を受けるから、そう言う電話にはすみません、すみませんって謝ってたそうなの。でもお母さんは私の事を大切な自慢の娘だって、私だけが分かってればいいって、死ぬまで言ってたって聞いた。そんなお母さんを思うと未だに涙が溢れて来る。殺人者と言う事実は一生付き纏うの。私はお母さんを殺人者の親にしてしまっただけじゃなくて、その時まだいなかった華や太一をも殺人者の子供にしてしまったんだから。周りに迷惑をかけている事だけが後悔してもしきれない事。だからマギーも華英も、お母さんを殺人者の親には絶対にさせられないの。させたくないのよ。マギーも、未だに友達をレイプされた上に殺された憎しみの炎は消えてない。華英ちゃんも先輩を殺害された憎しみを持ってる。でも2人には私とは違う復讐を選んで欲しいの。刑事なら手錠をかけた瞬間、そいつを殺したのと同じ。正しいレールの上で犯人に復讐して欲しいの。道を外れちゃダメ。あなたは刑事であって殺人者ではない。それを肝に銘じて刑事を続けて欲しいのよ。」
華英はうんともいいえとも言えなかった。若菜の言いたい事は痛いほど良く分かるが、昼間覆面男に拳銃を挿入されて受けた辱めに刑事としてのプライドをズタズタに切り裂かれてしまった事のショックが大きく、もはや自分に自信が持てなくなっていた。