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思い出の初体験
【幼馴染 官能小説】

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譲司を変えたもの-2

譲司は珍しくドキドキした気持ちを抑えながら、彼女の上から下までを見て言った。
「彼女さん…。30代、いや、40代、かな。じゃあ、紗彩とか、どうですか?」
「もっと古い名前よ。なんか恥ずかしいわ。そんなタイプじゃないでしょ?」
謎多き女は譲司の投げかけに少しだけ反応をした。

「じゃあ、思い切って……花子、はあり得ないですよね?」
「そうね。さすがにそれはないわ。」
謎多き女は少し怒ったような、それでいて少し笑いながら譲司の言葉に応えた。
「でも、名前が古いから、年齢もっていうわけじゃないですから……。」

「でも、カズ君も、今どきの名前じゃないわね。」
彼女は譲司の手を愛おしむようにゆっくりとさわりながら言った。
「ええ。大事な人、ぼくの叔母さんの名前からとったんです。」
「叔母さんの?」
「ええ。和美って言います。」
「和美?どこかで聞いたような名前だわ。」
「いや、和美なんて言う名前、別に珍しくもないじゃないですか。」

和美という少し古臭い名前がカズという呼び名の元だと知って親しみを感じたのか、
彼女は譲司の思いもよらぬことを口にした。
「そうね。わたしも、そういう意味ではどこにでもあるような名前。秀美よ。」
「秀美、さん?」
彼女と接客したホストのだれもが聞き出すことのできなかった名前を、
本名かどうかはともかくとして、譲司はいとも簡単に聞き出すことに成功したのだ。

「ええ。石川秀美。ね?ちょっとひと時代前の名前でしょ?」

「昔、そんな名前のアイドルが、」
「へー、知ってるんだ。カズくんって、ほんとはいくつ?結構いってたりしてね。」
「秘密の暴露は一つずつですよ。」
「じゃあ、わたしも一つだけ。わたし、誰かから逃げてるみたいなの。」

譲司は一瞬固まり、言葉を失った。
「なんですか、それ?」
「言葉通り。」
「誰かから逃げているって?」
「つまり、誰かに追われているっていうこと。」
「なにがあったんですか?」
「う〜ん。本当に記憶がないの。ただ、誰かに追われていて、
 逃げている途中で……。」
「何かあったんですね?」
「そう。崖の下にいた。それだけは覚えている。
 でも、誰から逃げているのか、なぜ逃げているのか、ほんとに記憶がないの。
 な〜んていう嘘に、みんな乗ってくれるわ。
 ホストをしている人ってみんないい人ね。」

そこまで話すと、自分でもしゃべりすぎたと思ったのだろう。秀美は口をつぐんだ。
そのあと譲司が何を聞いても、秀美は笑ってやり過ごすだけだった。

「じゃあ、とりあえず、秀美って呼んでいいですか?」
「あら、呼び捨てなの?」
「ぼくは好きになった人にさんは付けないんです。」
「あら。じゃあ、わたしもあなたのことをカズ、って呼ばせてもらうわ。」
「いえ、だったら、譲司、って呼んでくれますか?」
「譲司?」
「ええ。ぼくの本当の名前です。」
「あ、そうよね。お店での名前は、本名じゃないものね。そう、譲司、っていうんだ。」
「ええ。今度はいつ、来てくれますか?」
「そうね。いつかは約束できないけれど、近いうちにまた。」
「じゃあ、その時にはぼくを指名してください。」
「譲司、でいいの?」
「いえ、店ではカズ、と。」
「そう。そうよね。でも、わたし、譲司と話がしたいわ。どうすればいい?」
「………。」
「嘘よ、嘘。カズ君。またね。」

秀美はそう言って店を出て行った。

(秀美。石川秀美。確かに正体は全くわからない。でも、次のチャンスはありそうだ。)


近いうちにまた、と言って店を出て行った秀美だったが、
それから1か月たっても秀美は店には来なかった。

「譲司さん。彼女が怒るようなこと、何か言ったんじゃないですか?」
仲間のホストたちは冗談交じりに譲司のことをそう言って責めた。
「いや、名前を聞いただけさ。」
「聞いても言わなかったでしょ?それ以外には何か変なこと、聞いたりしてません?」
ホストたちは口をそろえてそう言った。
(名前さえ教えてもらっていないのか、こいつらは。)

本名であるかどうかはわからない。
それでも自分には、石川秀美と言う名前を告げていった。
いや、それどころかカズではなく、
本名である譲司に会いたいと、秀美は告げて帰っていったのだ。

初めてだった。
譲司が特定の客が訪れることを心待ちにしたのは。
他の客と話をしていても、
店のドアが開いた気配がすると秀美が来たのではないかと見回してしまう。

なじみの客から店外デートを持ち出されれば他のホストへの手前もあるので、
譲司は仕方なしに応じた。
客が例のホテルへ入るなり、譲司にSМ道具を差し出しても、
譲司はそれをボーッと見つめるだけだった。
再三、客から促され、ようやく鞭を振るっても、その力なさに客たちは、
最初は戸惑いつつも、次第に怒りをあらわにし、オーナーの南野に連絡を取った。

譲司は南野に呼び出され、ひどく叱責を受けた。
だが店の稼ぎ頭でもある譲司の首は簡単には切れない。
反応の薄い譲司を前に、南野は結局は気持ちを入れた接客の念押しをするしかなかった。


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