ヒーロー-11
本当なら若菜自らが輝樹を取り調べたい所であった。しかし若菜の中で1番大事なのは華英のケアである。若菜はそれを優先し、取り調べは杉山に任せる。大悟は輝樹の双子の兄、健司の行方を追った。
若菜は18時になると華英とともに県警本部を後にした。運転する若菜だが、常に2台、護衛の車がついている。若菜もそれには慣れたようだし感謝している様子だ。鼻歌まじりで運転する。
途中、マギーからLINEが来た。今日何回かLINEがあったが見ていなかった。華英はマギーからのLINEを見る。
『華英、お昼食べた??私は山崎さん達とカツ丼中。ヤバいわ、私も上原さん化(おっさん化)してる。』
『華英、忙しいの??やっぱ華英と一緒じゃなきゃ捜査がやりずらいよー。もう帰りたい。』
『華英、どうしたの??何かあった??』
『華英、今何してるの??』
電話も何回かあった。そのLINE一つ一つ見て、華英は涙を零す。
「こんなに心配してくれるマギーを私のせいで酷い目に遭わせるトコだったなんて…。私…、もしそうなってたら…」
すっかり弱気の華英。自分の行動一つでみんなに迷惑がかかると言う事を実感し、怖くなった。
「マギー、何だかんだ言っても華英ちゃんの事が大好きなのね。あの子、ああ見えて情には厚いからね。もし華英ちゃんに何かあったら、昔の私みたいにきっと犯人に復讐してただろうね。なり振り構わず。」
華英は言葉が出なかった。暫く涙が止まらなかった。
「マギー、お姉ちゃんのように思ってる。生意気言ってもわがまま言っても、マギー、なんだかんだ言っても私の話、全部聞いてくれる。いつも気にしてくれてる。なのにマギーに何も言わないで勝手な事して…、私、最悪です。」
「フフ、それもなんだかんだ言って、マギーは許してくれるから。でもきっと怒るよ??あなたの事が大事な分だけ怒ってくれるはず。でも今回の件はマギーには言わないでおこう。杉山くんの事もあるし、胸が痛いかもしれないけど、内緒に。」
「分かりました…。」
きっとその方が捜査の為になるんだろうと考えた華英は納得した。
「ほら、マギーが心配するから何か返事しときなよ。」
「あ、はい。今日ずっと上原さんと一瞬にいてLINE出来なかったって事にしていいですか?」
「うん。いいよ?」
「ありがとうございます。」
華英はマギーに返事する。
『ごめん、マギー。今日上原さんと一緒でLINEできなかった!』
『そうだったんだー。心配したよー。でも何で?上原さんがLINEするなって??』
『何か機嫌悪くてスマホいじれる雰囲気じゃなくて。』
『どうせ昨夜旦那さんに迫ったら断られたとかじゃないのー??』
『分かんないけど…』
『今夜ヤレば明日には機嫌直るよ。』
『あ、それはないかも。今日ご飯誘われて、今から上原さんの家にお邪魔するの。』
『え?マジ!?噂じゃ上原さん、カツ丼しか作れないって話だけど。あの人どんだけカツ丼好きなんだか!とか言いながら、私も最近カツ丼ハマってるけど!ヤバい、上原さんのオッサンイズムがうつったかな。』
『私もカツ丼好きだから大丈夫だよ。じゃあ何かあったらLINEするね?』
『分かったよー。上原さんに何かされたらすぐLINEするんだよ?助けに行くから!じゃーねー!』
そこでLINEが終わった。車が信号で止ると、若菜は華英のスマホを奪い取る。
「あ…」
LINEの内容を確認した若菜はフヘヘヘ、と、変な笑い声を響かせた。
「マギーちゃん、私をディスるとはいい度胸してるわねー。だいたいダーリンが私の誘いを断る訳ないでしょうに!いつも私に悶絶してるんだからっ!!それに人をオッサン呼ばわりしてー。マギーめ、後で杉山くんから情報引き出してメチャクチャに恥辱させてやるわっ!」
「アハハ…」
笑っていいのか悪いのか良く分からない華英。車は厳重な警戒がなされている若菜の家に到着した。自動扉のガレッジが開くと、警備員に誘導され駐車する。そして扉が閉まるのであった。