竜宮城-8
半年後の12月、海斗と幸代の結婚式が行われた。ずっと緊張していた海斗だが、披露宴になると緊張している自分を見られるのが嫌でわざとバカっぽく振る舞った。入場の時、頭をかきながらヘラヘラしていた海斗だが、水色のドレスを着た幸代にはみんなうっとりした。
「お前、ちゃんとすれば意外といい女なのな!」
幸代らが通り過ぎる時に冷やかしを入れる安田部長。
「もともといい女ですから!…って何おっぱいチラチラ見てるんですかー!?退場してもらいますからねっ!」
「い、いや…、意外とあるんだなって思ってさぁ…アハハ…」
「もぅ。意外意外って、普段私の何を見てるんですかぁ??上司失格ですよ?」
「ハハハ…(この後スピーチがあるんだが…)」
喋れば普段通りの幸代だが、ヘアをセットし、メイクもバッチリ、そしてドレスを身につける幸代は輝いて見えた。女性陣は特にうっとりしていた。
席につき海斗の緊張感をひた隠すバカっぽい挨拶から披露宴は始まった。終始明るいムードで式は進んで行く。知香にデレデレして足を踏まれながらも笑顔の絶えないいい披露宴だ。
式には瀬奈の両親も出席した。
「海斗くん、幸代さん、おめでとう!」
この時ばかりは海斗と幸代も神妙な顔つきになった。
「お二人に祝福してもらうのが、私、一番嬉しいです。」
幸代が立ち上がって言った。そんな幸代の手を美香が握る。
「海から助け出されて病院のベッドで昏睡状態の海斗くんの名前を呼ぶ幸代さんを見て、ああ、幸代さんはこんなにも海斗君の事を愛してるんだなって思った。瀬奈はきっと幸代さんに敵わないって思って、負けを認める前に身を引いて隠れちゃったのよ、きっと。」
「そんな…。でもありがとうございます。私、名前の通り、瀬奈ちゃんの代わりに幸せになります、絶対に。」
「ううん?幸代さんは幸代さんの幸せを掴んでね?誰の代わりでもない、幸代さん自身の、ね?きっと瀬奈も喜んでるわ?もしここに居たらきっと泣きながらおめでとー!って祝福してるはずよ?海斗君、幸代さん、本当におめでとう!」
「ありがとうございます!」
康平と美香の祝福に、少し肩の荷が降りたような気がした。
海斗の親族席に海斗の両親の遺影が置いてあった。その横にもう一つ、誰も座っていない席が用意されていた。知香が気になって聡美に聞いた。
「あの空席、三上瀬奈って名前書いてあるけど、誰なんですかね??」
「さぁ。あそこだから親戚かなんかじゃないの??」
「ふーん。」
そう言って皿の上に料理ではなくビスケットが置いてある事を謎に思いながらも、すぐに振り向き式を楽しんだ。