急展開-6
ひたすら待っている海斗の目に映ったのは、まず幸代の車であった。
「ん?あれ、幸代か…?」
イメージ的にはスポーツカーとかをブンブン乗り回していそうな幸代だが、乗っているのは可愛らしいピンクの軽自動車だ。その可愛らしい車が海斗の横に停まった。
「幸代!?どうしたんだ!?」
もう今すぐ会社に向かわなければ遅刻するかしないかのギリギリの時間だ。しかもノーメークのラフな格好。海斗の方が焦ってしまう。
「私も会社休みました。」
「え!?マジ!?」
「はい。ここじゃ邪魔になるから中に停めますね?」
幸代はそう言って門を入り車を停めて戻って来た。
「何もお前まで休む事…」
「私だって瀬奈ちゃんが心配なんです!一人で抱え込まないで下さい。私だって瀬奈ちゃんを探す権利あるんですから!」
あまりに勢い良く言って来た為、海斗は怯む。
「わ、悪い…」
ついつい謝ってしまった。せっかく来てくれたのにああだこうだ言うのも申し訳ないと思い、何も言わなかった。
「部長、何も言わなかったか?2人して休んで。」
「言ってませんでしたよ??どうせいよいよ結婚かとか勝手に思ってるんでしょうから、明日の朝がメンドクサイはずだから覚悟しておいて下さいね。」
「確かに。メンドクサイからなー、あの人は。」
「本当ですよ!しかもデリカシーがない!人の顔見る度に言うんですよ!?もうヤッたか?まだヤッてないのかって!」
「ハハハ…」
「こないだ、危うく言いそうでしたよ、ヤリましたって。」
「お、おい…」
「嘘ですよー!それはどうでもいいとして瀬奈ちゃんです!まだみたいですね。」
「あ、ああ…」
「大丈夫です。きっと来ます。瀬奈ちゃんが戻る場所は海斗さんのトコしかありませんから。」
そう言って励ますかのようにジッと見つめて来た。その気持ちに海斗は勇気づけられるし、幸代のお陰で心を落ち着かせる事が出来た。
「ありがとうな、幸代。」
「いえ…。」
真顔でジッと見つめた海斗に、幸代は少し恥ずかしそうな仕草を見せた。
少しして康平らを乗せたタクシーが到着した。
「悪いな、海斗君!瀬奈は…」
「まだ来てません…。」
「そうか。一応足取りを今調べて貰っている。こちらに向かってるのは間違いないはずだ。きっと瀬奈はこの街のどこかにいる。」
幸代も康平も瀬奈がここに来ているのは間違いないと確信している。それは海斗も含めて、いかに瀬奈を理解しようと努力したかと言う事だろう。浅くしか瀬奈を見つめていなかった人間には決して得られない確信なのであった。