牛丼-1
今日は、足柄から富士山が見える。
空気が澄んでて、とても気持ちのいい朝だ。
花梨は、風呂に行ったまま、まだ帰ってこない。
東名高速の足柄SAには、温泉がある。
昨日は入ることができなかったから、きっと、じっくり体を洗ってるのに違いない。
そのあたりは、やっぱり年頃の女の子。
普通に風呂に1時間以上掛けるからね。
俺は10分で終わるけど。
航海に出てから一週間が経っていた。
すでに5回の運行を終え、次の卸し場に向かう途中で、足柄に寄ることにした。
この足柄SAには、吉野家やココ壱、スタバなどの有名テナントもたくさん入っていて、食い物には困らない。
温泉だってあるし、外観だけなら、ちょっとしたアミューズメントパークだ。
あまり知られていないことだが、高速道路上のSAやPAには何でもある。
トイレはもちろんのこと、コンビニもあれば、ガソリンスタンドだってある。
もちろん入浴施設だってあるし、コインランドリーで洗濯することだって可能だ。
生活に必要なものはほとんどそろっていて、高速道路を下りなくても生きていけるのだから、ドライバー達を無理に家に帰す必要がない。
こういった理由もあって、過度な長時間運行ばかりが増えていくんだろう。
過酷な状況に置かれるドライバー達に足りないのは、家族のぬくもりだけだ。
だが、今の俺には、温かすぎるほど温かい、花梨がいる。
夜中に運行している間は、ずっと花梨を抱っこしていた。
もちろん、花梨の中には、俺のがずっぽり。
辛いはずなのに、花梨はひたすら俺にしがみついていた。
「誰かに…見られないかな?」
初めて高速道路に乗り込んだときは、さすがの花梨もビビってたっけ。
速度にじゃない、見られる心配にだ。
一般道路では、車両は密集してるわ、道路の脇に高い建物があるわで露見する危険が多すぎるから、花梨を抱っこするなら高速道路に乗ったとき、しかも夜中だけと決めていた。
理由は簡単。
夜中の高速道路ならば、何をしようが見えないからだ。
「大丈夫だよ。向こうからこっちなんて見えないさ」
深夜の高速は、スライドする対向車両の運転席の中なんて、まったくわからない。
中央分離帯があるから距離が離れているし、ヘッドライトの光のほうが目立って、ドライバーの姿すら見えないのだ。
もちろん、前後の車からは見えるはずもない。
たとえ同じようなトラックが隣を追い越していっても、それは一瞬だけのことだし、前方に意識が集中してるから、こちらを向くこともない。
それに仮に目を向けたとしても、サイドガラスには半分ほどカーテンが引いてあるから、俺たちの姿はそのカーテンの影に隠れて、ほとんど見えることはない。
長距離トラックのサイドガラスに、中途半端なカーテンが引かれているのは、もはや常識。
「じゃあ…、安心…なんだ…」
もう、最初っから赤い顔して、ハァハァ言ってたっけ。
辛いのか、興奮してんのかよくわかんなかったけど。
「いや、そうでもねえんだ」
実は、深夜バスだけは注意しなければならない。
夜中でもバスは走っている。
各都市間を結ぶ高速バスだ。
意外と台数は多くて、路線によっては結構な数を目にすることもある。
どういうわけかこいつ等はトラックを抜きたがる。
しかも、ゆっくり抜いていくから、併走時間が長くて、客が興味津々にこっちを覗き込んできたりする。
バスの運転手は、前方に集中してるだろうが、客はそんなの知ったこっちゃない。
しかも、左側にある客席は、俺たちトラックの運転席と距離が近くなるから、意外と中がわかったりする。
夜中はバスもカーテンを引いて遮光してるから、外を眺める酔狂な客がいるとも思えないが、まったくいないとは言い切れない。
カーテンの隙間から、こっちを覗いてる奴がいないとは限らないんだ。
じっと覗かれたら、さすがにバレる。
ナンバーなんか覚えられたりしたら、最悪だ。
「じゃあ…バスが来たら…どうするの?」
「ブレーキ踏んで抜かせるだけ」
簡単なことだ。
だが、時間が命のトラック乗りに、危険でもないのにブレーキを踏むってのは意外と躊躇する行為なんだ。
習性みたいなもんだろうか。
「でも…そんなに…危なくはないんだね…」
花梨も少しは安心したらしい。
ってか、お前大丈夫?
もう、ハァハァ言ってて、今にも倒れそうな感じ。
胸に抱っこしてる花梨の熱が、なんだかいつもより高かった。
「ずいぶんと熱っぽいけど、大丈夫か? 調子悪いんじゃないのか?」
「大丈夫…」
「キツいんだったら、下りていいぞ」
「平気だってば…」
「ほんとは痛いんじゃないのか?」
ただでさえ狭い膣が、いつもよりさらにキツくなっている気がした。
「痛くなんかないよ…そうじゃなくて…」
「じゃなくて?」
「なんか…ヘンなの…」
「変…って?」
「見られるかもしれないって思ったら…」
「思ったら?」」
「な、なんかね…ゾクゾクしちゃって…いつもより…すっごく…気持ちいいの…」
「……………」
立派に育ってるんだなぁ、って思った。
違う方向にだけど。
今度、露出に連れてってあげるね…。