帰省-1
高速のインターを降りると県道に出た、車は休日で通行空いていたせいか薫の実家まで時間はかからなかった。
「もうすぐよ、そこを回ると見えてくる住宅街の中なの」
薫は樹にそう言いながら携帯から母にラインしていた。
「母さんもうすぐに着くわ・・・・気を使わなくていいのよ」
車の速度を落としながら樹は初めて会う義母の事が気になっていた。
「そこに止めて、ここよ」
指さした住宅は借家のような造りで質素な家に見えた。
外で車のドアを開ける音を聞いて静枝は緊張していた。
薫はトランクから荷物を取り出して樹に持たせると玄関の戸を開けた。
「ただいま・・・」
「ハーイ・・」
樹も薫に付いて玄関から中に入った。
「紹介するは三島 樹さん、私の母よ」
「三島です宜しく」
すがすがしい好青年に静枝は目を細めてほほえんだ。
「薫の母です、宜しくお願いします」
樹も意外なほど若く美しい静枝を見ながら笑みを浮かべた。
「今日は遠いところお休み取っていらしたんでしょ」
居間に案内しながら樹を迎え入れた。
「今お茶を入れますから、薫ちょっと手伝って」
ふたりは台所に出た
「薫 とてもいい感じの人ねお母さんあの方だったら結婚賛成よ」
静枝はそう言いながらお茶を入れた。
リリリン リリリン
「はい花村ですが・・」「ええ午後からですか、仕方ありませんね伺います」
「どなたから」
「仕事の件で午後から三時まで行ってくるわ、もうこんな時にね」
静枝はヘルパーで職場から呼び出しがあった。
「帰りは買い物して帰るから三島さんに宜しくね」
「ごめん樹、母緊急のお仕事が入ったみたい」
「俺の事だったらいいよ、でもそんな呼び出しもあるんだな、じゃあ今日は俺がお母さんに料理でも作って差し上げようか」
「いいのそんな事、たしかに樹の料理美味しいからきっと驚くわ」
「決まったら準備するか」
樹は初めて訪問した薫の実家をわが家のような振る舞いでいた。
「お父さんは幾つだったんだ」
居間の壁に掛けてある遺影を見て薫に聞いた。
「52で亡くなったの母と8歳違いね、もう十年になるのね」
「そんなに若く・・・でも君の母さん綺麗だな、薫に似合わずグラマーだしね」
「まあ〜いやだ男の人って」
そのころ静枝は葛西重蔵の家に訪問していた
相変わらず葛西は部屋を散らかしていた、もう八十近い男であるが成人向けの雑誌をわざとらしく炬燵の上のテーブルにおいては訪問するヘルパーを冷やかしていた。
その為中には訪問を敬遠する者もいて静枝を代わりに訪問させていた。
「ごめんなさいね」
手際よく部屋の掃除をしながら
「葛西さん成人向けの雑誌はこんなところに広げないでね、ヘルパーさん嫌がるわよ」
「花村さんも厭かい、でもみんな男はこんなもんよ、旦那さんもそうだったろう、みんな遣ってる事じゃないか」
「そう言うことはプライベートですから、セクハラですよ」
静枝は笑みを浮かべながら散らかしてある雑誌をそろえて本棚にしまった。
葛西はベットに横たわりながら静枝を観察するするように見ていた。
(この女なかなかいい体してるしケツなんか凄いいい形してるな、堪らんぜ)
「旦那は幾つだい、子供もいるんだろ」
「夫はもうあの世の人です、子供はいますよ」
「それじゃあ後家さんかい、まだ若いのに気の毒だな」
「葛西さんは・・・」
「俺もな妻を若くして亡くしてるんじゃ、子供もいたがもう10年も会っておらん」
葛西にもそんな事情があり寂しさを紛らわせるための行いだとすればやむを得ない事かもしれないと静枝はおもった。
「子供が結婚相手連れて来てるんです、3時には帰らせていただきますので宜しくお願いします」
「そうかい、早く帰ってやつてくれ、悪かったな」
葛西はそういう優しさも持った老人である。
静枝は葛西の好意で早く帰らせてもらった、急いでスーパーに寄って買い物を済ませた。
「ただいま」
「お帰りなさい」
「ごめんなさいね三島さん、せっかく来ていただいたのに・・」
「母さん夕飯の支度は済ませたわよ」
静枝は台所に出て驚いた、すっかり準備は整っているではないか
「薫 ありがとう」
「母さん樹が提案したの、お母さん疲れて帰って来るから二人でやろうって」
「そうなの、三島さん有難うございます」
静枝は三島に丁寧にお辞儀して礼を言った。
「いいえ、勝手にこんなことしてすみません、僕も少しは料理出来るんです」
「そうなの、夫とまるで正反対、何も出来ない人だったんですよ」
その晩 和やかな夕食を始めて会う娘が連れてきた男と楽しんだ。
「薫、お布団が一組しかないんだけど・・」
「いいわよ、どうせ結婚するんだし私たち一緒に寝るわ」
「それはどうかしら、三島さんにひとりで休んでいただいた方がいいんじゃない隣の座敷に敷いておくからゆっくり休んでもらって」
「そうか、じゃあお母さんと久しぶりに寝ますか」
薫はその旨 樹に伝えた。
風呂から上がると樹は静枝に挨拶してから用意された布団に入った。
しばらく親子で会話する声が聞こえたが聞きとることはできなかった、しかし初めて会った義母の静枝の色っぽさ、薫にはない魅力を樹は感じ取った。
あの義母が今は独り身の体、他の男でもいるのだろうか・・・妙な勘繰りをしてなかなか寝付かれないでいた。
「ねえ母さん、なかなかイケメンでしょ」
「そうね薫が羨ましいわ・・・」
「私たち籍を入れたら家を買うつもり、お母さんも一緒に住まない、もうこの借家古いしお父さんがいないんだから寂しいでしょ」
「三島さんはそんなつもりないんでしょ、私が行くとしてもね」
「大丈夫、樹は思いやりある男だしいいと思うわ」
それから一年後静枝は娘夫婦が立てた家に入るのであった。