学校の秘密-3
「いや、そんなこと、信じられないだろ。
立場上、オレの方が圧倒的に不利なんだぞ、今のこの状況は。」
「だから、誰にも見られずに誰にも知られずに済めばいいことでしょ?
この部屋でのこと、センセが言わない限り、わたしは何も言わないってば。」
「だったら、何のために?」
「だからさっきも言ったじゃん。わたしはセンセの味方だって。」
「味方………。」
「そう。これから保護者会とかもあるでしょ?
いろいろと知っておいた方がいいんじゃない?」
「い、いや、その頃には中野先生が復帰してくるはずだし………。」
「甘いな〜。中野先生は保護者会が怖くて学校を休んでるんだよ。」
「保護者会が怖いから?なんだ、それ?」
「ほら、少しは興味出てきた?」
中野先生が戻って来ないと聞いてオレの頭は混乱し始めた。
しかもその理由が来月に予定されている保護者会にあるという。
「ああ。教えてくれ。何か問題とか秘密でもあるのか?」
「う〜ん。中野先生はこの街とは合わなかったみたい。」
「この街とは合わなかった?環境かい?」
「そうね。環境と言えば環境かな。自然も、文化も制度も、住んでいる人の考え方も。」
「そんなにこの街っていうのは特別なの?」
「わたしたちにとっては当たり前だと思っているけれど、
よそから来た人には特別なんじゃないかなあ。
わたしはこの街で生まれて育ったから、他の街のことはよく知らないし。」
でも、学年が上がってきていろんな勉強してくると思うことはあるよ。
この街って特別という関わっているというか。」
「特別?」
「うん。そう簡単には信じられないんだろうなって。」
「信じられない?」
「うん。でも中野先生が休んでいる理由はそれだけじゃないけどね。
でも、もうこの学校には戻って来ないと思う。」
中野先生がいつまで休むかということは代わりのオレにとってはかなり大きな問題だ。
これからの予定だって見直す必要もあるし、生活にも少なからず影響がある。
ただ、今はそのことよりも、この学校やこの地域の秘密の方に興味がでてきた。
「その話って…誰もが知ってることなのかい?」
「もちろん、知ってるよ。この街の人ならね。
今の校長先生はこの街の人なんだ。
だからちゃんとそのことを分かってて学校をやってるって。」
「分かってて学校をやってる…。学校経営方針って言うやつだな。」
そういえばオレはその辺りの話を校長からきちんと聞いてはいないことに気づいた。
普通、面接のときにいろいろと聞かされるものなのだが、そうした話はなかった。
それにこの1週間はさほど大した事件も問題もなく過ぎて来たので、
校長に改めてそうしたことを聞く気にもならなかったのだ。
まあ、若菜のことは別にして。
「この学校って、何か特別な研究とか…。普通じゃない行事とかあるの?」
「う〜ん。その【特別】とか【普通】がよくわかんないんだよね。
さっきも言ったみたいに、わたしにとってはここが【普通】だから。
でもお父さんが【今の校長は地域のニーズをちゃんと理解してる】って言ってるよ。」
「地域のニーズ、か。いったいどんな?」
「う〜ん。〇学生には難しすぎる質問なんじゃない?
あ、でも、センセ、この学校の周りの家、見て、何か感じなかった?」
「家?ああ、家か。そうだな〜。一軒一軒が豪華というか、立派というか。
駅から少し離れると高級そうなマンション。豪華な住宅、そんな感じかな。」
「うん。わたしの家もそう。庭付きの豪華な6LDK。」
「6LDK?凄いな。」
「うん。でもわたしの家は小さい方だよ。
若菜の家は高級マンションの2フロア占有だもん。」
「えっ?2フロア?」
「うん。まもっとも、みんな自宅兼仕事場というか………。」
「自宅兼仕事場?」
「うん。仕事場って言うか……みんな、接客業やってるんだ。」
「接客業?自宅でか?」
「そう。」
オレには麗子の言うことが全く理解できなかった。
それぞれの家が豪華で、自宅兼仕事場になっているということが、
この学校と何の関係があるのだろう。
ただ、そうした地域の特徴が地域のニーズにつながっていることは十分に考えられた。
オレはようやく本腰を入れて麗子の話を聞く気になった。
「麗子ちゃん。話、聞かせてくれ。」
「じゃあ、抱っこして。」
「えっ?」
「センセに抱っこされながらだったら、お話ししてあげる。」
(抱っこ?まずいだろう。)
「ほら、これ。リモコン。センセに預けておくから。これなら安心でしょ?」
麗子はそう言うとオレの膝の上に乗ってきた。
「ね、もっとギュッとして。」
「えっ?ま、まずいだろ。」
「何が?ギュッくらい何でもないでしょ?」
「いや、でも、オレは一応、じゃなかった、れっきとした先生だから。臨時任用でも。」
「わかってるって。でも、このくらい普通だよ。」
「普通?」
「うん。休み時間の校長室に行ってみれば一番よくわかるから。」
「校長室?」
「うん。休み時間になると校長室は女の子たちでいっぱい。
みんな校長先生の膝の上に乗ったり、抱きついたり。
若菜ちゃんみたいにしてる子だっているよ。」
「若菜ちゃんみたいに?えっ?ま、まさか………。」
「まさかじゃないってば。センセくらいだよ。いちいち驚いているのは。」
「????」