切ない幸せ-8
仕事ぶりも以前のように冗談を交えながら締めるところは締め、海斗らしい姿を見せていた。たまには模範的な社会人の姿もいいが、やはり海斗には海斗らしくいて欲しいと幸代は願っていた。
そんな海斗だが、スマホを気にする機会だけは増えていた。それはやはり瀬奈からの電話を待っている証であろう。自分に電話が来る時は良からぬ事が起きた時だと分かっていても、ついつい気にしてしまう。
海斗のスマホ画面には良く連絡帳から瀬奈の番号が呼び出され表示される。しかし発信ボタンを押すことはなかった。かけてみようかな…、そう思いながらもなかなかその勇気が出なかった海斗。出来る事ならかけて来てくれ…、そう思っていた。
幸代のおかげで気が晴れた。一見以前の海斗に戻ったようにも見える。しかし瀬奈の事が忘れられない以上、本質的には何も変わらずにいた。瀬奈の事を一人で抱え込まずに口にする事で気が晴れると思っていた海斗であったが、実際には口にする度にその存在が大きくなるばかりであった。夜になると一人、瀬奈の写真を見ながらいつも胸が締め付けられている海斗。気づくといつも目に涙を溜めていた。
海斗は夜空を見上げる。幸代も同じ夜空を見ているのだろうか。同じ夜空を見つめているのに、夜空は幸代を映し出す事はなかった。