その3 茶道教室に誘われて-1
茶道教室の講師である房江は、私のことで、
愛人のさつきになにやらうながしていた。
さつきがそのことで房江に謝った。
私はそれで終わりだと思ったがそうではなかった。
今度は、房江は私に顔を向けて言った。
私は、どこか心の内面に彼女が勝ち誇ったような雰囲気があるのを感じて
面白くなかった。と言うかこの場の雰囲気の中で不吉な予感さえした。
本当は、一刻も早くこの場から抜け出したかったというのが本音である。
「お待たせしました、貴方はりゅうすけさんでしたね」
「はい、そうですが……」
私は房江が何を言い出すのかじっと待っていた。
この時までは、腹に不満を抱えてはいたが、
ことを起そうとは思っていなかった。
それにわざわざ火をつけたのは房江のほうだった。
「せっかくお越しいただいたのに、きついことを言ってごめんなさい、
でも、あなたがさつきさんのお友達ということで言いました、
もし今後もお茶を楽しみたいと言うことであればそのようにしてください、
このままではさつきさんが可哀想ですから」
そう言って、房江は勝ち誇ったように言った。
普通ならば彼女はこの世界では著名であり
美人でもある自分に意見するものなど誰もいなかったのだろう。
しかし私は違っていた、こういう女を見ると余計に闘志が燃えてくる。
どうしても服従させたいという思いが途中から抑えられなくなってくるのだ。
帰りたいと言う気持ちと、変な闘争心が私の心の中で交錯していた。
「あの、お言葉を返すようですが、さつきの何が可哀想なんですか?」
普段ならば誰も自分の言葉に反論するものはいないのに、その日に限って私が
食ってかかってきたのに、房江は少し驚いた様子だった。
「可哀想っていうのは、なんて言いますか……
お茶を習っている彼女に失礼じゃないんですか」
私の質問に房江は、眉毛をひそめて言葉を選んでいた。
「どうしてですか、何が失礼なのかよくわかりませんが?」
思わぬ私の反逆で、明らかに彼女は少し戸惑っている。
私の経験から言うと、自分の意見をズバズバと言う人間ほど
核心をつかれて、反論される場合になると戸惑うことがよくある。
しかし、さすがに私の目の前にいる房江はしたたかだった。
「お茶を飲むと言う事は、お湯を沸かして抹茶を入れ、
そのお茶碗に入れたものを飲む、ということだけではありません。
先ほど言いましたように、
その行為の中には様々な人間に必要な作法が含まれているのです。
心の問題でもありますしね」
茶道の世界では、このような会話はよくあることで、
茶の湯を楽しみながら会話をして風流を楽しむということだが、
その中にも細かな礼儀というものがあるらしい。
それくらいは私も承知はしているつもりだが、
私にとってはその相手がいけなかった。それが茶道教室の講師である房江だった。
普段の私は、本質的には人と言葉で争うようなことは好まない。
しかしその日は違っていた。私のS魂が目覚めたからだ。
相手が普通の女なら笑って済ませただろう。
それに、私の性奴隷である愛人の前で、
いいところを見せたいと言う思いがあったのかもしれない。
そこで私は反逆に出た。
「では、その心とは優しい気持ちで接し、正しいマナーを持ちなさいと言う事ですね」
「そうですよ」
房江は美しい顔をして満足気にうなずいた。
「それからマナーといいますと、
人を押しのけて強引に割り込むなどと言う事はもってのほかですよね」
「はい、まったくおっしゃる通りですよ」
「分りました、失礼ですが先生もそのようにいつもしていらっしゃるんでしょうね」
「当然です」
この部屋の茶人たちは思わぬ展開の私と房江を見つめていた。
いつもの茶会では、このような切り込んだ話などはしない。
いよいよ私の攻めが始まる、
この美しい房江という女は、皆を前にして得意げな顔をしていた。
その顔は初心者なのに自分に食いついてくる私を論破しようとする
プライドが感じられた。
「先生はそのような綺麗ごとをおっしゃっていますが、
実際は違うのではないでしょうか」
「えっ?」