11月:酉の市-2
「だから秋田さんにしろって言ってんだよ」
強めに言う青木のその言葉は、私を心配してくれているからだって分かってる。
「あんたは黙ってなさいよ」
青木を制止する葵のその顔は今にも泣きそうで。
あぁ、同期って良いな。と思う。
あの夜。
私は小川くんを追いかけられなかった。
秋田さんに抱きしめられた私が、何を言っても嘘になると思ったから。
でも、そのまま何も考えずに秋田さんの腕の中に居ることもできず
すぐにその腕の中から抜けだした。
私はずるい―――
どっちの胸に飛び込むこともできない癖に
どっちの手を離すこともできない。
小川くんはあれから2週間の予定で日本にいると連絡が入ったけど
詰め込み過ぎの予定は、私と会う時間なんてなく
山梨の研究所と横浜の本社を行ったり来たりで
毎日のメールをするだけでドイツに居る時と変わりない。
ただ・・・
私が夜の時、今の小川くんも「夜」だ。
こんな当たり前のことが嬉しいなんて
普通の恋人は考えない。
でも逆に言うとこんな普通の事すら、私たちには普通じゃない。