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THE 変人
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なぜ…-13

しかし康平の目は真剣だった。そして神妙な顔つきをして海斗に聞いた。
「瀬奈は…台風で荒れた海の中に身を投げたのですか…?」
その言葉を聞いた瞬間、海斗は信じられないと言ったような表情を浮かべた。
「何も聞いてないんですか…?」
康平は情けない…、そんな様子で頷いた。海斗は少し怒りを覚えたが、一度息を吸い込み、ゆっくり吐いてから言った。
「人間て、あれこれ詮索されるのは嫌いなものです。でも本気で心配してくれる人には、実は聞いて貰いたいものだと思うんです。瀬奈さんが元気になったら、是非彼女の苦しみを聞いてあげて下さい。」
康平はまるで歳上の人間に諭されたかのように深く頷いた。

「自分は瀬奈さんが飛び降りた所を見た訳じゃありません。今思えばバシャンと大きな魚が跳ねたかと思った音が着水した時の音だったのかと思います。あの雨風吹き荒れる中、その音が聞こえたって言う事は相当の音だったと思います。そのぐらい高い崖から彼女は飛び込んだと言ってました。場所は大洗。彼女はそこを目指して来たのではなく、たまたま行き着いた先がそこだったと。死ぬと決めて崖の上に立ったものの、やはりその高さと荒れ狂う海に怖くなり、すぐには飛び込めなかったと。しかし長い間強い雨風に打たれ、気力がなくなって来ると、早く楽になりたいと思えて来たそうです。そこで頭に浮かんだのが小さな頃に海で両親に聞いた竜宮城の話だと。竜宮城はとても楽しい所…、その竜宮城に行って早くその苦しみから解放されたい、そう思いながら荒れ狂う海に飛び込んだそうです。」
「崖から飛び込んだ…」
康平は節句した。台風の荒れ狂う海に向かって高い高い崖から飛び込まなければならない程瀬奈は苦しんでいたのかと思うと辛くて仕方がなくなった。

「お父さん、彼女がいきなり凶暴になる事が病気だとご存知ですか?」
「び、病気?瀬奈は病気なんですか!?」
それさえも知らないのか…、海斗は怒りを通り越して悲しくなってきた。
「知り合いの医者に診てもらいました。環境性人格障害と言う精神病なんです。」
「精神病…?瀬奈が…?」
「はい。ただし薬で治るような類の病気ではありません。今はなんでも病名をつけたがる。ひと昔前なら変人の一言ですまされていたものも、何だかんだと病名がついてしまう時代です。ですから病気と言っても周りのサポート一つでなんとかなるものなんです。瀬奈さんの場合、その環境によって急に人格が変わってしまう症状が出る病気です。じゃあ瀬奈さんはどう言うキーワードがきっかけで症状が出るのか、自分は考えました。それで分かったんです。瀬奈さんの人格が変わってしまうキーワード。それは浮気です。」
「浮気…」
康平はじっと海斗の話を聞いていた。


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