その2 愛奴を調教して-5
皆は、いよいよその話が始まるのではと思いながら
ハラハラと固唾を飲んで見守っている。
「今日はご苦労様でした、お友達を連れてくるのは良いのですが、
もう少しこちらに来る前に、なんていますか、
お友達にも心の準備をされることがよろしいのでは……」
房江は冷たい顔で、皮肉を込めた目で私を見つめている。
「は、はい、この方に、
少しでもお茶の楽しみを知っていただきたいと思いましたので、つい」
さつきは緊張しているようで額から汗がにじんでいる。
「ええ、そういうお気持ちはとても大切だと思いますよ、
でも物には限度というものがありますからね」
その目は冷たく、私の愛人を小馬鹿にしているようで、私
の腹は煮えくりかえっていた。
「すみません、私の不注意でした、以後気をつけます」
さつきは神妙な顔をし、恐縮して頭を下げた。
「そうして下さいね」
そういいながらも、房江は勝ち誇ったように私を見つめている。
他の客達は、厳しいが茶の作法などは
一目置かれている房江のその厳しい言い方に慣れていたので、
いまさら驚くことではないらしいが、それを知らない私は頭にきていた。
私は房江の言葉にカチンときた、
このまま黙って何も言わないでおこうと思ったのだが、
その怒りは収まらなかった。
この女は自分が茶道の教師だと言うことに優越感を感じ、
そのプライドを見せつけることで快感を得るようなサドチックな女だと察した。
それは自分が同じ種類の人間だからそれがよくわかるのだ。
(今に見ていろきっとお前を……) と言う気持ちがふつふつと湧きあがってきた。
房江の顔は次に私に向けられた、その目は冷ややかだった。
私が彼女に対して始めからそういう目で見ていなければ、
房江も私に対して露骨な態度を取らなかったかもしれない。
それならば、私も彼女の傲慢な態度を我慢しただろう。
しかし、それが彼女にとって、また私にとって幸か不幸だったのかは
今後の結末を見ればわかると言うものである。