未来・谷山萌・谷山葵-1
俺たちがこれからの生活を送っていく愛の巣は、一千万円をギリギリ切る値段の中古戸建てだが、悪いところは少しもなかった。
交通のアクセスもよく、周辺の治安もよさそうだ。
幼稚園や小学校はやや離れている。これから子供を迎える俺たちとしてはネックだったが、そこを我慢すればこそ格安で買えたと言っていいだろう。
「まあまあの家なんじゃないの?」
「……って、お前が偉そうにコメントすることかよ」
荷物の段ボールが積まれたリビングでくつろいでいる谷山萌に俺は言った。
「あたし亮介の第二妻みたいなもんだし、口挟む権利はあるでしょ」
「何だそりゃ。お前までここに住み着くつもりか?」
「未来さんがいいって言ったらそうしよっかな」
キッチンに引っ込んでいる未来に聞こえるよう、わざと声を大きくする萌だ。
「ちょっと萌ちゃん? さすがにそれは調子乗りすぎじゃないのぉ」
冷たいコーヒーを盆に乗せ、未来がリビングに入ってきた。
レンタカーのトラックを借りてのセルフ引っ越し。手伝いを買って出た萌を含め三人で、搬入がすっかり終わっての休憩である。
身重の未来をあまり働かせたくはないので、実質は俺と萌の二人作業だった。
手伝いには男友達の手を借りるつもりだったが、是非にという志願をしてきた萌は、予想以上に頑張ってくれた。タンクトップは汗ぐっしょりで、いやらしい豊満ボディが香ばしくフェロモンを撒き散らす。
俺はソファで二人の女に挟まれ、アイスコーヒーをすすった。
「ご飯、お寿司でも取る?」
未来が提案した。午前から動き通しで、既に時計の針は午後四時を指していた。
「ピザ食べたーい!」
第二妻がヤングらしい高カロリーなリクエストを出す。
だが俺は、食い気よりも色気を優先させたかった。
「別のチーズ臭えもんが食いたいんだけどな」
コーヒーを持つのと逆の手で、萌の太腿を撫でる。ショートデニムもぐっちょり汗ばんでおり、その中の蒸れた味は格別であろうこと間違いなしだった。
「未来さん、どうするー? こいつマジでエッチのことしか頭にないよね」
「ほんっとサイテーの変態だよね。萌ちゃんがよければ、まずは絶倫ダーリン満足させてあげてからご飯にしよっか」
二人ともまんざらではなさそうな笑みを見交わした。
俺だけが変態呼ばわりされるの、理不尽じゃねえか?