9月:ドイツ-11
なんとなく気まずくなったまま
小川くんが予約してくれていたレストランで
ドイツ料理を堪能した。
そう。
堪能したはずだった。
美味しいはずのドイツ料理は、今の私には何の味もしなくて
優しく笑う小川くんの笑顔が怖かった。
きっと・・・
「何もないから」
そう自信を持って言える小川くんは本当なんだろう。
でも、それでも、これから先は分からない。
そばにいてあげられない私に何が出来るのか。
何もできない自分に歯がゆくなって
愛してる、の言葉さえ陳腐に感じる。
お互い、あれ以来彼女の話を持ち出さずに
5か月ぶりに会えたこの貴重な時間を大切に過ごそうと緊張していた。
けんかや言い争いでこの時間を使いたくない。
それでも胸に残るこのモヤモヤは
自分自身で消し去ることはできなくて。
彼女の小川くんを好きだと言ったあの言葉が耳から離れない。
私たちはその夜。ぎゅっと抱きしめ合って寝た。
お互いがお互いを離さないように。
身体を抱きしめ合えば、心がそこにとどまるかと信じているかのように
抱きしめ合って、寝た―――