8月:花火-5
屋上に行くと結構な人数がそこにいて
始まる少し前に、青木と秋田さんがやっと上がってきた。
「もう!遅いよ!」
葵が軽く青木に怒って
それを慰めるように青木が葵の肩を抱く。
その時、一発目の花火が上がって、全員の視線が空に舞った。
気が付かないうちにそっと握られた手は
秋田さんで
困ったように秋田さんを見上げれば
視線を花火に向けたまま
「今だけ」
そうつぶやいた。
優しく優しく、そっと握られた手に花火よりも気持ちが集中して
振りほどけない、振りほどかない自分に困惑する。
それでも、スッとその手を抜けて
数歩前の青木に声をかけた。
「ねぇ。葵と写真撮ってよ」
逃げるように離した手を秋田さんは何も言わずに
「ほのかちゃん、サンダル?」
と笑った。
「そうなの。ほのかったら下駄を忘れちゃって」
「もう!入れたと思ったんだけどな」
「じゃぁ、写真は上半身な!」
そう笑う青木に
「花火も入れてよ!」
と葵が注文した。
ここにいる誰も、数秒前に私が秋田さんと手をつないでいたことを知らない。