片山未来(25)・清原珠理(24)-4
修平氏の会社は、都心オフィス街の高層ビル内にあった。
ワンフロアを専有した事務所を拠点に、なんとかデザインやらソーシャルなんとかやらといったカタカナ語まみれのビジネスを展開しているという。
「あの……社長、奥様がお見えになってまして……」
内線で修平氏に取り次ぐ受付嬢は、肉感的な丸顔の可愛子ちゃんだ。半袖サマーセーターがムチムチの肢体を強調し、広めの襟ぐりからはばっちり豊乳の谷間も覗いていた。
社長たる修平氏が指示してこの格好をさせているとしたら、かなり趣味がいい。未来に一目惚れした審美眼といい、案外よき友になれるかもしれない。
受付嬢は「奥様」のお連れ様たる俺をいぶかしげな眼で見つつ受話器を置いた。
確かに怪しげな男としか映らないだろう。
スーツ姿だが、勤め人らしいオーラは皆無である。
自分で言うのも何だが、着こなしは悪くないほうだ。高級な生地を使っている訳でもない量販店で仕入れたありきたりのダークスーツだが、サイズはきっちり合っており、シャツやネクタイの色合わせも決まっている。
派手派手しい柄を取り入れたりもしていない、なのに、そこはかとなく崩れたムードを醸し出してしまうのは、生き方によるものだろう。
むしろ身なりがびしっとしていればいるほど、まともではない感を醸し出してしまう人間なのである。
俺は明らかに好色な視線を受付嬢に送りつつ、案内されるまま未来の後に着いて社長室へと向かった。
社長室といってもパーテーションで仕切られただけの一角だ。物々しい「会社」らしからぬラフな雰囲気は、若手社長率いるベンチャー企業らしい造りである。
デザインに金がかかっているであろう有機的フォルムのよく分からんデスクに修平氏はいた。林檎印のノートパソコンから眼を上げ、未来の伴っている俺に不審げな一瞥をくれた。
「どうしたの、会社にいきなり来るなんて……」
優男ではあるがジムなどで鍛えているのだろう、ガタイのいい修平氏は、ルックス通りの太い声で、しかし柔らかい語調で未来に問いかけた。
正体不明の同伴者こと俺については、まずはノータッチというところか。
「うん……ちょっと急ぎの話があって。お仕事中ごめんね」
未来はつっかえながらやっと言った。
事前の打ち合わせで、未来が用件を端的に述べるよう取り決めてある。
しかし、いざ本番となると未来は完全にアガってしまっているようで、次の言葉がまともに出てこない。
俺は文字通り尻を叩いた。
亭主野郎の眼の前で女房のケツをぱっしぃーん。
いい音が響いた。
修平氏は腰を浮かせ、見開けるだけ眼を見開いて口をあんぐりさせた。
「あ、あのね……伝えたいことがあるの」
震える声で未来は切り出した。