片山未来(25)・谷山萌(18)そして尾野上冴(45)-5
『会いたいな〜』
そんなメッセージは、俺のハートをかきむしるばかりだった。
メッセージの主は、片山未来。
俺に身も心も捧げ尽くしている因縁の同級生だが、まだ表向きは亭主と新婚生活を満喫する若妻である。夫と並んだベッドから抜け出して俺のところへ駆けつけるほどの真似は出来ない。
『会いたい会いたい。顔見るだけでもいいから会いたい』
度を越しているだろうという執着ぶりだが、未来が俺に向ける想いは嘘偽りがなさそうである。
俺もだよ、と返信し、既読のサインが表示されるのを見ると、くすぐったいような、それでいてほっこりとした気持ちが俺の胸を満たした。
『明日の昼間なら会える!』
未来の即レスが来た。
明日は定食屋のバイトが入っているから、難しい──と言うべきところだったが、たかがバイトの賃仕事。すっぽかしたところで頭数が一人減るだけで、何とか現場は回るだろう。
俺は速攻で未来との逢瀬を優先させるべく決心した。
『明日は休みだから、どこでも付き合うよ』
『亮介のうち行ってご飯作る!』
『ダメです』
『えー何で!?』
『俺が手料理作って未来にご馳走する』
肩透かしからの嬉しがらせ。
術中にはまった未来は、一拍置いてから嬉し泣きのスタンプを送ってきた。
肌を切り裂くような寒さだったが、ほろ酔い加減の俺はぽかぽかしていた。
二十四時間営業のスーパーで食材を買い込み、アパートへ戻った。
未来に振る舞ってやるメニューは、海鮮焼きそばと青菜炒め、それに厚切り豚バラの塩こしょう焼きと決めた。男の手料理だから簡単なものばかりになってしまうが、変に手の混んだ大作に挑戦して失敗するより、慣れた安定路線を選ぶべきだろう。
腕時計を見ると、既に日付が変わる頃合いだった。一人酒で随分時間を潰してしまったものだ。
すぐさま寝よう。
朝起きたらひとっ風呂浴びて、いそいそと食事の支度をするのだ。
階段を上がり、自室のドアへ向かう──と、そこにうずくまっている人影があり、俺は咄嗟に身構えた。
深夜に他人の家の真ん前で酔いつぶれているのか、それとも俺を待ち伏せする人間だろうか。
俺の姿を認めて人影は立ち上がった。
どうやら待ち伏せの線が当たっていたようだ。
「遅いよ」
不機嫌な声で言い捨て、歩み寄ってきたのは谷山萌だった。