L顧問弁護士-1
松田社長から呼び出しを受けた。
久志の一周忌以来なので2年ぶりの再会だ。
「実は大杉君に頼みがあって来てもらったんだ。」
大杉と呼び捨てにせず君付けで呼ばれたことで話の重要性を感じた。
居住まいを正した時、秘書の恵美さんが入ってきた。
「大切な話なので田所君もここに同席しなさい。大杉とは久しぶりだろ?」
田所???
「恵美さん再婚されたのですか。」
「そうなんだ。当社の営業部長の田所と結婚してもらったんだ。
薦めた以上俺が仲人を務めた。今は幸せの絶頂にいるようだよ。」
なるほど未亡人の影は消え匂い立つような美しさだ。
秘書が着るグレーのスーツ姿が色っぽく見える。
ぴったり下半身にフィットしたタイトスカート。少し強めに絞られた上着のウエスト。
そのいずれもがあの全裸の恵美さんを思い起こさせる。
あの事件以来麻沙美も何となく距離を置きだして今では交流は完全に途切れている。
「今日大杉君に来てもらったのは我が社と顧問弁護契約を結びたいからなのだ。」
恵美さんが言った。「社長ちょっと待ってください。今の法律事務所は弁護士30人を抱えています。
大杉さんところは本人も含めて5人ほどでしょ。緊急の場合間に合いません。」
「田所君、いいんだよ。大杉君にしかできない仕事を頼みたいのだ。」
「私は反対です。私たちの業界はトラブルの起こりやすい業種だし現に訴訟問題は絶えません。
百戦錬磨の事件師や下請け業者を相手取って大杉さんが戦えるとは思いません。」
どうしても健太郎と松田建設とのかかわりあいを避けたいようだ。
「久志が死んで3年になるのだが死ぬ前と死んだ後では我が社の利益率が極端に違うんだ。
どこかで利益が漏れているように感じるのだ。会計士にも調べさせたが帳尻はあっている。
これを調べてほしいんだ。
会社の恥部をさらすかも知れない事案を大手弁護士事務所に任せられないよ。
世間に漏れてしまう可能性があるので君に頼みたいのだ。」
「わかりました。ぜひやらせて下さい。
ただ恵美さんの反対を押し切ることは嫌なので私どもを第二弁護士として扱ってもらえませんか。
その方が調査にも集中できると思うんです。」
こうして健太郎は毎日松田建設を訪れる事になる。
どの部署に行っても社員たちは健太郎との間に壁を作って身構える。
「迂闊なことは言えないぞ。」という思いがそうさせるのだ。
嫌われていても唯一顔見知りの恵美さんがいる秘書室での滞在が長くなる。
この日の秘書室には山本早織という秘書課長が一人だけいた。
ソファーに腰かけ松田常務の思い出話に花が咲いた。
名門大学を卒業して入社13年目だそうだ。
「松田常務や恵美室長には本当にお世話になりました。
3年前子供の心臓移植で渡米した際もこのお二人がいなければ手術はできなかったんです。
手術は成功し子供は毎日元気に小学校へ通学しています。本当に有難いことです。」
「でも常務は亡くなり恵美さんも再婚してしまったんですよね。
僕は常務の久志とは幼馴染で二人がどれほど愛し合っていたかはよく知っています。
二人の思い出のビデオも自宅には沢山あります。だから再婚が信じられないのです。」